KOBAYASHI HIDEKI'S COLUMN 2022

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2021年6月号の生活協同組合研究に掲載

住民の支え合いを通した安心の住まいに向けて

(掲載にあたって)
 住まいと暮らしの安心の実現には、自助・公助・共助の連携が大切である。その中の共助について、近年、支え合いの住まいが注目されている。それらを推進するために、筆者は、AHLA(もうひとつの住まい方推進協議会)の活動を支援してきた。AHLAは、2021年10月に活動を休止したが、その取り組みは現在も様々な場面で生きている。
 この原稿は、そのような支え合い住まいを紹介しつつ、今後の住宅政策において支え合いの住まいを位置づけることの大切さを展望するものである。

はじめに

 住宅問題の解決に向けて、自助(自ら解決する)、公助(公的福祉により解決する)、共助(人々の支え合いにより解決する)という3つの道がある。これらを適切に組み合わせることが、一人一人にとっても、これからの住宅政策にとっても重要と考えられる。

 本稿では、このうちの共助に焦点をあてる。もちろん、都市住民が住まいを探すとき、通常は不動産事業者を通して売買したり、借りたりする。居住後は、近所とは仲良くしつつも深入りはしないというのが近隣関係のコツになろう。そこには、「住民の支え合い」が活躍する場面は少ない。しかし、少子高齢化が進展する中で、支え合いを大切にした住まいづくりは着実に広がりつつある。
 最初に、いくつかの事例をみてみよう。次いで、それらが求められる背景を考察しつつ、これからの住宅政策のあり方を描いてみたい。

1.支え合いの住まいの事例に学ぶ

 4つの事例を紹介する。いずれも、その後の支え合いの住まいに影響をあたえた特徴的なものである。

(1)シングルマザーのシェアハウス

 最初に取り上げる事例は、母子家庭のシェアハウスである。その先駆となったのが、2012年入居のペアレンティングホーム高津(PH高津)である。現在は、建物所有者の事情で運営を終了しているが、その実現に携わったグループは、その後も複数のハウスを実践している。その出発点になった事例として紹介したい(写真1)。

 PH高津は、子育てと仕事の両立を目指すシングルマザー向けに企画され、台所や居間を共用する全8室のシェアハウスである。筆者研究室の藤田慶子さんが入居者の声を調べているので紹介しよう。子どもの年齢は、幼児から小学校低学年が中心で、「引っこみ思案の子が挨拶するようなった」「皆で兄弟のように遊び話している」と仲間がいる環境で育つことの良さが評価されている。

 さらに印象的な声は、母親の暮らしの変化である。「時間にも気持ちにもゆとりができた」「同じ境遇の親が集まっていることで保育園の送迎等の自然な助け合いがある」「お互いに仕事のことで刺激を受ける」「ストレスから子どもに辛くあたることがなくなった」等々。シングルマザーにとって、ここでの暮らしが生活の質を高めている様子が伝わってくる。

 もちろん、支え合いだけてば重荷になる。そこで、子育てを支援する「チャイルドケア」のサービスを導入している。サービスは週2回実施され、子どもの面倒をみるほか全員分の食事を作る。家事の負担軽減はもとより母親の心のゆとりを生み出すと好評だそうだ。つまり、各家庭が個別にベビーシッターを雇うと費用が高く困難だが、複数世帯でシェアすれば導入できる。このように、支え合いとサービスの導入をうまく組み合わせることで、ゆとりと安心の暮らしを実現している。

(2)コレクティブハウス

 コレクティブハウスは、個別の暮らしを大切にしつつ、居住者の運営参加と食事を一緒にとるコモンミール等の共生の暮らしの良さを求めた住まいである。各部屋に台所やトイレ等を完備する一方で、共用の食堂や居間を充実した集合住宅を典型としている。北欧系がコレクティブハウジング、北米系はコウハウジング(co-housing)と呼ばれる。

 日本では、北欧系を参考にして、2003年に多世代型の本格的な事例、コレクティブハウスかんかん森が東京日暮里に誕生した(写真2)。発足当初は事業者が運営していたが、2007年に居住者組織が一括借り上げして自主運営に変わっている。さらに、最近のコロナ感染の影響を乗り越えてコモンミールを続けており、今日でも、支え合いの住まいの良さを伝える先進事例であり続けている。

 そこでの暮らしは、「子育て天国」「ひろびろコモンでたっぷり遊べる」「みんなが親やおばあちゃん。人見知りする暇もない」。さらに、「一人暮らしでも我が家に帰ってきた安心感がある」など、大きな屋根の下で多世代が暮らす良さを伝えている。

 コレクティブハウスは、その後もNPO法人のコーディネートにより、新築だけではなく、社員寮の改修や一戸建空き家を活用した事例が実現している。

(3)空き部屋の地域開放-ゆるやかな支え合い

 この事例は、住まいを地域に開放したものである。一人暮らしのお年寄りが、使っていない2階の部屋を週2回、地域のニットカフェ活動に提供している。人と人のふれあいを通した、ゆるやかな支え合いの良さを示す例として紹介したい。

 この家に住むお年寄りには、結婚して実家を離れた娘さんがいた。娘さんは、母親が一日じゅう誰とも話すことがない日が続くことを心配していた。時々電話すると、話し方を忘れてしまったように口籠もることがあったという。そのような時に目にとまったのが、東京世田谷区の「地域共生のいえ」の活動である。住まいを地域活動に提供することを支援する制度である。これを契機として、2階をニットカフェの活動に提供することになった。その効果が素晴らしい。

 カフェの日は人々が集まり、挨拶や会話がある。このことが、お年寄りの暮らしを大きく変えた。娘さんとの電話でも生き生きとした様子が伝わってきたという。住まいの地域開放が、一人暮らしのお年寄りを元気にしたのである。

 恐らく、カフェに集まった人々に支え合いという意識はないかもしれない。しかし、お年寄りは場所を提供し、人々はふれあいの機会を生み出した。見事な支え合いである。

(4)環境共生型コーポラティブ住宅

 以上の3つは、日々の暮らしにおける支え合いであるが、次に紹介するのは、住宅づくりの場面である、コーポラティブ方式(住民の建設組合が発注する集合住宅づくり)により実現した環境共生住宅・経堂の杜を紹介したい(写真3)。

 経堂の杜は、地域から失われていく緑をなんとか残そうと、地主と企画者、そして住民の協同により実現したものである。本格的な環境共生は建築費が高くなるため実現が難しいが、ここでは土地を定期借地権にする「つくば方式」と呼ばれる仕組みを用いて住宅価格を下げ、公的補助無しで実現している。


写真3 緑に覆われた環境共生住宅・経堂の杜

 2000年完成と年月を経ているが、2017年には、屋上緑地で養蜂する住民が現れ、それを地主も他の住民も楽しんでいる。20年という年月を感じさせない豊かな環境が実現しており、今日でも先進モデルとして輝いている。

 一般分譲マンションは、万人向けに企画することになり、このような特別な住まいを実現することは難しい。そこで、環境共生の理念に賛同する人々が集まり、建設組合を結成して実現した。つまり、ここでの支え合いとは、同じ目的を持った人々が互いに協同して集合住宅づくりに取り組むことを指している。

Ⅱ.なぜ、支え合いの住まいが求められるのか

 以上、4つの事例を紹介した。いずれも住民が自ら参加しつつ、人々の支え合いによって生み出されたものである。なぜ、このような住まいが求められるのだろうか。建設段階から日々の暮らしまで、それぞれの場面で整理してみよう。

(1)住まいづくりの場面-建設組合

 住民が参加する住まいづくりは、一戸建の注文住宅では普通にみられる。しかし、集合住宅では、出来合いの住まいを買うか借りるかの選択になる。そこてば、少数の特別な要求は実現されにくい。例えば、車いすの居住者が便利な場所の集合住宅を求めても、それに適した住宅を探すことは難しい。

 そこで注目されるのが、前述したコーポラティブ住宅である。写真4は、その一室である。玄関まわりを広く設計して段差を無くし、さらに、手すりをうまく設置して、足腰が弱ったお年寄りが移動できるように工夫している。


写真4 コーポラティブ住宅の車いす対応住宅(山口邸)

 写真のお年寄りは、ここに息子さんと引っ越してきて半年ほどすると、車いすから立ち上がり、手すりにつかまりながら移動できるようになった。ある日、家族の不在時に機器の操作が分からず途方に暮れたとき、そろりと歩いて隣の家に助けを求めたという。お年寄りが移動しやすい住まいを実現したことに加えて、建設組合を通して居住者どうしの交流と信頼感がある。その相乗効果が生み出した奇跡であった。

 このように、集合住宅づくりの場面における支え合い(ここでは協同のこと)の意義は、「出来合いの住宅では対応できない特別な要望を実現し、しかも、そこに信頼できるコミュニティを生み出すこと」にある。先に紹介した環境共生住宅は、この意義を室内だけではなく、建物全体に広げた好例といえる。

(2)管理運営の場面-住宅組合

 ところで、欧米にもコーポラティブ・ハウジング(コウオプ・coop)がある。これは日本とは異なり、居住者による住宅組合が所有・運営する住宅を指している。その発祥は、英国の協同組合運動において組合員に住宅を提供したことに始まるとされる。その後、欧米に広がったものである。コウオプにおける協同の特徴は、居住者が主体的に参加して住宅の管理運営を担うことにある。さらに、入居希望者の面接や審査を行っている。

 この点を生かして、ニューヨークのコウオブでは、人種や宗教が同一のコミュニティを担保できることが人気の理由と言われる。これは社会的包摂(インクルーシブ)とは逆行するが、協同を求める理由の一側面として認識しておきたい(詳細は参考文献2)。

 一方、日本のコーポラティブ住宅は、建設後はマンションと同じ区分所有になる。建物完成により卒業するといわれる所以である。しかし、建設段階での協同が居住後のコミュニティと管理運営に受け継がれることも多い。とくに、環境共生のような明確な目的をもつ事例では、協同の精神が長期に持続しており、住宅組合に近い効果を生み出している。

(3)日々の暮らしの場面-共助の再評価

 日々の暮らしにおいて、住民の支え合いが注目される理由は何だろうか。結論を先に言えば、自助と公助の両方の領域とも不安定になっており、それを補うために、共助が再評価されている。もちろん、共助だけでは重荷になる。自助・共助・公助の適切な組み合わせが、今日求められる暮らしであろう。これを整理したものが図1である。


図1 共助を再評価する時代の変化

 昔の村落社会では、顔が分かる範囲での助け合い(本稿での「共助」)は、農業生産等のために不可欠であった。しかし、その後、産業化が進展してサラリーマンが中心の社会になると、各世帯が市場でサービスやモノを買って自立する領域(現代の自助)が拡大した。一方、親族や地域における助け合いの衰退は、福祉の充実を政策課題とした。こうして自助=市場と、公助=福祉が拡大する中で、共助はしだいに衰退していった。

 しかし、今日、再び共助を評価する動きが強まっている。その第一の理由は、少子高齢化と財政難による公的福祉の限界への懸念である。その一方で、その代替を自助に求めることは現実的ではない。自助の領域も不安定になっているからである。

 今日、若者も高齢者も単身者が多数を占めるようになった。これとともに、これまで重要な役割を果たしてきた「家族の役割」が衰退している。つまり、従来の自助とは、「家族と市場」が向き合うことであり、そこには家族の助け合いがあった。しかし、今日の自助とは、「個人と市場」が向き合うことである。家族のあり方が変わる中で、自助に大きな期待をすることは難しい。

 そこで注目されるのが、人々の支え合い、つまり共助である。もちろん、支え合いが重荷になっては長続きしない。例えば、仲間が寝たきりになっても介護することは難しい。共助が担うのは、心の拠り所や安心感、緊急時の助け合い、シェアによる経済的な暮らしといった領域である。

 つまり、自助・共助・公助が互いに補いあう暮らしが求められており、このことが、支え合いの住まいへの関心となって表れている。

Ⅲ.支えあいを住宅政策に位置づける

 以上の動向を踏まえて、これからの住宅政策を展望してみよう(図2)。この図は、横軸に様々な世帯タイプをとり、縦軸に所得層をとったものである。


図2 これからの住宅政策のあり方

(1)居住福祉政策の対象者を考える

 最下段は「生活保護」の対象である。その上に「公営住宅」の本来階層(収入分位25%以内。世帯収入が下から25%という意味)が位置づく。これらは、旧来の居住福祉政策の対象であった。しかし、中所得者であっても住宅に不安をもつ人々は多い。高齢者が一人暮らしになり、さらに心身が弱ったときの不安は大きい。また、子育て世帯は住宅に広さを求めるが、それに見合う費用負担力が乏しいことが少なくない。このため、収入分位50%程度までは、居住福祉政策の対象として位置づけたい(2011年の公営住宅法改正により自治体判断で入居条件を緩和できる階層が40%から50%に拡大されている)。

(2)空き家・空き部屋活用によるセーフティネット住宅の拡大

 さて、以上を踏まえて、これからの居住福祉政策を描いてみよう。第一の課題は、「空き家活用によるセーフティネット住宅の拡大」である。これには、広い家で部屋が空いている場合の「空き部屋の活用」を含めたい。これらを通して、人々が負担可能な住まいを実現していくことが課題である。

 しかし、大都市では、空き家活用を工夫しても家賃は高くなる。これを解決するには、政府が家賃補助を実施するか、それとも「シェア居住による家賃負担の軽減」を探ることが必要になる。例えば、3LDKで家賃15万円であれば、3人がシェアすれば一人5万円になる。その住まいにおいて、入居者どうしのゆるやかな支え合いがあれば望ましいだろう。写真5は、それを求めた好例である。

(3)良い貧困ビジネスと悪い貧困ビジネスの区別

 シェア居住による低家賃住宅は、実は、生活保護者を囲い込む貧困ビジネスとして存在している。このため、良い貧困ビジネスと悪い貧困ビジネスを見分けることが必要になる。その客観的基準は難しいが、筆者は、居住支援協議会等を通した個別チェックが有効であると考えている。この場合、良い貧困ビジネスとは、①生活保護世帯も非保護世帯も一緒に入居している(家賃が適正な証)、②自立支援活動がある(囲い込みではない)、③運営を公開している、のうち複数を満たすことと考えている。

(4)住民の支え合いによる住まいを政策に位置づける

 一方、中所得者の不安に対応する方法の一つが、ゆるやかな支え合いの住まいである。グループリビングや疑似家族の暮らし、シングルマザーのシェアハウス、コレクティブハウス、コーポラティブ住宅、住まいの地域開放などが位置づけられる。

 これらの住まい方は、人々の自由な選択であり政策が誘導するものではないかもしれない。しかし、人々がそのような住まい方を希望した時に、それを実現しやすい基盤づくりは政策の役割であろう。具体的には、①支援団体の育成と補助、②支え合いの住まいと暮らしの紹介、③実現の障害になっている法制度の見直し、があげられる。

(5)空き家活用の推進に向けた法規制の見直し

 このうち③法制度の見直しの例として、空き家をグループホーム、グループリビング、シェアハウスに転用する場合の建築規制がある。これら用途が、住宅ではなく寄宿舎と判断されると、建築基準が厳しくなり転用が難しい。この問題に対して、2018年に建築基準法が改正(翌年施行)され、200㎡以下の用途変更は確認申請の手続きが不要になった。つまり、空き家を活用した小規模なものであれば、危険は少ないとして行政の関与を弱めたのである。これにより一歩前進したといえる。

 ただし、確認申請手続きは不要になったが、建築基準自体は自己責任で守る必要がある。このため、事業者が対応に迷うケースがみられる。また、自治体が改修費等を補助する場合は、小面積であっても合法性の確保が必要になる。このため、もう一歩進めて、小面積のシェア居住であれば、寄宿舎ではなく住宅であることを確認する制度があることが望ましい。実際、一定の条件を満たす小規模グループホームやシェアハウスについて、自治体が条例等により住宅として扱う例がある。

 この他にも、市街化調整区域での空き家活用の困難さや、住宅の地域開放に伴う税金の取り扱いなどの課題がある。さらなる検討が求められよう。

 いずれにしても、この分野における住宅政策の役割は、「人々が支え合いの暮らしを望んだときに、それを実現しやすいい基盤づくり」である。

おわりに-公営住宅の役割を見直す

 以上の政策を通して、民間賃貸住宅や空き家を活用したセーフティネット住宅が充実すれば、いずれ公営住宅の見直しが課題になる。筆者は、良質な公営住宅は、次世代を担う子育て支援に重点化することが望ましいと考えている。そのためには、低所得者だけではなく中所得者を含めたコミュニティを実現すること、及び子育て世帯の優先入居と期限付入居を進めること、が必要になる。

 一方の高齢者は、空き家活用型のグループホームやグループリビングの拡大を重視したい。そこでは、建物の質は劣っても、支え合いやサービス提供という良さがある。

 これからの住宅政策の鍵は、①空き家・空き部屋活用によるセーフティネット住宅の拡大、②公営住宅の子育て支援への重点化、そして、本稿の主題である、②幅広い所得層を対象とした「住民の支え合いの住まいの基盤を整えること」にあると考える次第である。

(参考文献)


2021年10月発行の「100の事例集」。支え合いの住まいの参考になります