KOBAYASHI HIDEKI'S COLUMN 2022
団地再生を敷地分割から地域拡大まで総合的に考える-団地再生委員会での議論を発展させて
(掲載にあたって)
団地再生にあたり周辺地域を巻き込んだ再編が注目されています。本稿はその総論として執筆したものです。しかし、郊外の大規模団地では、団地敷地を分割するという逆の要請もあります。そこで、分割から拡大までの全体像を俯瞰することが必要と考えまとめました。あわせて、国交省の団地再生委員会(2014~2019)を踏まえて法改正が行われましたが、その可能性と課題を考察します。
なお、具体的な事業例は、住宅2021年3月号に掲載されていますので本稿とあわせて参照下さい。
はじめに
団地再生を検討するにあたり、その再生事業の範囲を定めることが重要になる。その理由は、一つは、大きな団地を小単位に分割して異なる手法(建替え、改修、現状維持、敷地売却等)により事業を進める要請があるためであり、もう一つは逆に、周辺を含めて範囲を拡大することで、施設整備を含む住環境向上への要請があるためである。本稿では、前者を「分割」、後者を「拡大」と呼ぶことにする。
ところで、国土交通省は「住宅団地の再生のあり方に関する検討会」(通称、団地再生委員会)を設置し、第Ⅰ期を2014年~2016年、第Ⅱ期を2017年~2019年に開催した。その成果を踏まえて、団地に関する法整備を行っている。筆者がみる委員会の中心テーマは以下の3つである。
一つは、団地型マンションの再生を円滑に進める法制度、二つ目は、同じく団地型マンションの一部を解消または再生する法制度(敷地分割等)、三つ目は、一戸建団地を中心に地域全体としての再生支援制度である。このため、集合住宅団地の「拡大」は主題ではなかったが、本稿では、委員会の議論を発展させて、分割から拡大までを総合的に検討したい。
事業範囲を分割するか拡大するか-集合住宅団地を中心に
表1は、集合住宅団地を想定して、再生事業の範囲を分割から拡大まで総合的に整理したものである。この表では、一般的な取り組みである団地全体を事業範囲とする場合を「全体」と記載している。つまり、分割-全体-拡大の3パターンで整理している。
一戸建団地については、「拡大」の内容は集合住宅団地と共通している。しかし、分割については、もともと個別敷地に分かれているため条件が異なる。例えば、建築協定等のルールの解除や縮小が「分割」に相当するテーマになる。
さて、表1にみるように、分割と拡大の必要性は再生事業の目的によって異なる。例えば、住棟の建替えが目的ならば、大きな団地の一括建替えは難しくなっており、一部棟のみの建替えが課題になる。逆に、商業施設や福祉施設の整備が目的ならば、想定利用者を地域に拡大して需要を検討することが必要になる。
さらに、団地の立地と規模も影響する(図1)。郊外立地の大規模団地では、合意形成や事業性を踏まえて分割への要請が強い。逆に、市街地や団地連担地域の中小規模団地であれば、隣接地に拡大して事業を検討することで、良好な住環境を実現する等の効果が期待できる。
事業課題別にみた事業範囲の特徴
以上の整理を踏まえて、団地再生事業について詳しくみてみよう。
(1)団地の定義
①団地範囲の定義:管理主体が一つの敷地範囲
分譲の場合は、団地管理組合が管理する範囲を指す。一方の賃貸では、UR都市機構のような一つの事業者が一体として(同一団地名で)経営する範囲を指す。つまり、いずれも管理主体が一つの敷地範囲である。
②団地連担地域の定義:拡大は複数の管理主体が連携
なお、複数の団地が隣接して一つの団地景観を形成している住宅地について、本稿では、必要に応じて「団地連担地域」と呼ぶ。このように定義すると、「拡大」とは、複数の管理主体が連携して進める再生事業と規定することができる。
(2)建物更新1:団地敷地を分割する
住棟の更新事業(建替え・改修・解体等)については、これまで団地の「一括建替え」が一般的であった。また、賃貸団地では、プロックごとに順次更新する「転がし方式」がとられてきたが、これは、一括建替えを工期別に進めるものであった。
しかし、近年は、郊外団地を中心に「分割」が検討されることが多くなった。その背景には、人口減少等による住宅需要の減退を受けて、公営住宅の建替えを除けば、大量の住宅を供給する一括建替えが経済的に成立しなくなっていることがある。このため、一部棟のみを建替える、あるいは団地の一部を「敷地分割」して譲渡する検討が行われる。譲渡した敷地は、店舗、福祉施設、高齢者住宅等の用地として、あるいは、一戸建住宅の分譲地として利用されている。
ただし、団地型マンションでは、多数決による敷地分割は区分所有法の想定外(全員合意が必要)であるため、敷地分割の実現例は一括建替えに伴う場合に限られている。
(3)建物更新2:周辺地域へ拡大する
一方、市街地や団地連担地域に立地する中小規模の団地では、単独敷地の建替えでは良好な住環境を実現できない、あるいは日影規制等で容積率を消化できないことがあり、事業範囲を隣接地に「拡大」する例がみられる。例えば、隣地を買収して建替えたり、あるいは飛び地に移転して建替えたりしている。さらに、隣接マンションとの「共同建替え」の例があり、今後は、地域で高さや壁面線等を定める「協調建替え」も課題となろう。
(4)建物更新3:一団地認定を解除する
一方、複数住棟・複数団地を結合しているルールを解消し、各住棟・各団地が個別に事業が進められるようにする要請がある。その典型は、建築基準法上の一団地認定の解除または範囲の縮小である。とくに、旧住宅公団の団地では、隣接団地で一団地認定が設定されているケースや、上下水道等の都市インフラを共用するケースがある。このような団地の更新事業を行う場合には、一団地認定の解除や都市インフラの分割が求められることが多い。
(5)各種施設の整備:団地を地域の拠点にする
団地再生において、商業施設、保育所等の子育て支援施設、高齢者向けの福祉施設等を整備するという要請が強い。ここで注目するのは、集会所のような団地専用施設ではなく、利用者を地域全体に拡大して整備するタイプである。このような施設は、自治体による優先的取扱いや補助の対象になる可能性があり、その整備に向けて地域の複数主体による協議会の設立も有効と考えられる。
(6)外部環境の整備:地域の魅力を向上する
団地再生において、緑地・公園・道路・歩行者路等の整備やバリアフリー対応、あるいは自転車置場や駐車場の整備、さらに建物の美観向上等の取り組みがみられる。UR都市機構では、これを団地環境整備事業と呼び、団地の魅力を高めるために重視している。
このような事業において、事業範囲を周辺地域に「拡大」する例がある。例えば、緑道や歩行者路を地域全体に通したり、敷地境界の緑地整備を連携して行ったりする例である。これらを担保する方法として、地区計画を定めることも選択肢になる。
(7)生活・交通サービスの充実と住民活動の推進
以上は、建物・施設・環境というハード面の整備であるが、団地再生にあたっては、生活サービスや住民活動というソフト面や、コミュニティバス等の交通の検討も重要である。
とくに、公的福祉を補う活動として、住民のゆるやかな助け合い活動の発展が期待される。例えば、子育世帯の交流の場づくり、子ども食堂、高齢者等の居場所づくりや食事会の開催、孤独死防止の活動などである。さらに、団地商店街の閉鎖に対応するために、青空市場の開催や宅配サービス、送迎サービス等の工夫が行われている。これらは、団地管理組合や自治会が行う他、地域のボランティア組織や非営利団体が取り組んでいる。
(8)多様な住宅の整備と住み替え支援
団地再生にあたり、住民の多様な住み方への対応が必要になることが多い。というのは、団地の住宅はファミリー向けが中心となっており、単身向け、高齢者向け、親子世帯の近居や同居向けは、十分でないからである。その推進にあたり、団地内での住み替えや、地域全体での住み替えを視野に入れることも重要である。
例えば、エレベーター無しの中層住宅の上階に住む高齢者が、低層階に住み替えることを想定して、管理組合が売買情報を提供する例がある。また一戸建団地では、二つの敷地を合体して同居や隣居に対応することも一案である。一方、地域に眼を転じると、高齢者向け住宅の新設と住み替え誘導、空き家のシェアハウス活用とそのための規制緩和、自治体による近居・同居支援等の課題がある。
(9)団地再生の担い手組織が重要になる
以上、7つの団地再生のテーマを取り上げたが、最後に、これらを推進する担い手について整理しておきたい。
団地再生の第一の担い手は、管理主体(団地管理組合や賃貸経営者)である。仮に、団地の一部を分割する事業であっても、検討主体は、団地管理組合やUR都市機構等になる。
第二の担い手は、自治会(町会)である。とくに一戸建団地や、複数団地が連携する場合は、自治会が検討の担い手になることがある。ただし、自治会は任意加入という限界があることに留意したい。
第三の担い手は、地域の複数主体の連携組織である。ここでは協議会と呼ぶ。協議会は、そこに地元自治体が加わることで、地域再生に向けて重要な役割を果たすことが期待される。
第四の担い手は、住民組織や事業者である。様々な生活サービスや助け合い活動の推進、宅配や送迎サービス等の工夫等を通して、団地再生の有力な担い手になっている。
以上の4つを示したが、今後は、これら担い手の住民に対する権限のあり方(後述)が、検討課題になろう。
団地型マンションに関する法整備
次に、団地再生委員会の成果と法改正のテーマを紹介する。最初に、団地型マンションを取り上げる。団地型マンションでは、多数の区分所有者が関わるため合意形成が難しいという問題がある。その解決に向けた検討が進められた。
(1)市街地再開発事業の団地再生への適用
第Ⅰ期委員会の中心課題である。団体型マンションの建替えや改修は、各棟の区分所有者による決議を積み重ねて進める必要がある。しかし、再生事業は長期に渡ることが多く、その間の事業の安定性の担保が課題になる。そこで、区分所有者が一度合意した後は、行政の権限で(行政法により)事業を安定して進めることが望ましい。
この課題を踏まえて、2016年に都市再生特別措置法の一部改正が行われ、団地建替え等を市街地再開発事業として実施しやすいように要件の見直しが行われた。具体的には、土地の共有者のみで事業を実施する場合に、各共有者それぞれを一人の組合員として扱うことになった。これにより事業の推進はもとより、区分所有法に定める4/5以上ではなく、2/3以上の合意で建替え事業が実施できることになる。
ただし、市街地再開発事業は、公益性の観点から「土地の高度利用」と「都市機構の更新」を条件としている。後者は、福祉施設等の整備を都市機能の更新として位置づける方針を定めたことで前進した。しかし、前者の高度利用の条件は、郊外団地の再生には適用が難しいことが指摘されている。今後の課題である。
法改正のもうひとつの特徴は、事業区域内に既存建物を残すことができる「個別利用区」を創設したことである。これにより、建替え棟と既存棟が混在する場合の権利変換が容易になることが期待された。しかし、個別利用区の設定は、当該区域の地権者の合意に基づくため、土地共有者が多数になる団地では全員合意が必要になり、事実上使えないとの指摘がある。
以上のように一歩前進したものの、郊外団地を想定した場合は限界がある。やはり新たに団地再生事業法を創設することが必要と考えられる。
(2)マンションの解消決議の要件拡大
第Ⅱ期委員会の主題である。マンションでは、住棟を解体する、あるいは建物と敷地を一括売却する決議(区分所有関係の解消決議)が求められることがある。従来は、耐震性不足か、被災時の大規模滅失の場合に限って解消決議が認められたが、これを老朽マンション等に拡大することが課題となっていた。
そこで、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」が改正され(2020年改正。未施行)、特別多数決による解消決議の要件が、建物劣化等に拡大された。これにより、管理不全マンション対策が進むことが期待される。
(3)団地の敷地分割決議の創設
一方、団地においては、一部棟を解消すると、その敷地を分割して譲渡することが必要になる。また、多数決で敷地分割が可能になれば、利用度が低い敷地に高齢者住宅を建設したり、建替えと現状維持の区域を分けたりすることも容易になる。
もちろん、現行法では、土地所有権の変更は全員合意である。そこで、解消決議の要件拡大にあわせて、敷地分割決議が創設された。ただし、解消と同様に、耐震性不足や建物劣化等が決議の要件となっている。
このような敷地分割決議の導入は画期的であり、一定の効果が期待できる。しかし、敷地分割の合意形成は意欲的な管理組合でないと難しい。しかし、そのような管理組合は、建物劣化等を放置しない。また、中層団地は壁構造で耐震性不足ではないことが多い。このような実態を踏まえると、敷地分割決議のさらなる要件拡大が求められる。
(4)一団地認定の職権による解除
団地の建替えにあたり、建築基準法上の一団地認定の解除が求められることが多い。しかし、認定解除には所有者の全員合意が必要とされ、度々問題となってきた。そこで、行政庁の職権により一団地認定を解除する運用方針が定められた。もちろん、一団地認定を解除しても接道条件や日影規制等に支障が生じないことを要件としている。
この運用方針について、使える場面が限られるとの指摘があった。その理由は、一団地認定の解除後に、「すべての住棟」が接道条件等を満たす事例は稀だからである。実際に求められるのは、建替えや敷地分割した区域のみ、一団地認定の範囲から除外することである。現在は、範囲の除外は、一旦解除した後に新たに設定することと解釈されているが、早期の見直しが求められる。
(5)マンション再生における地方自治体の役割
また、自治体の役割の重要さについても議論があった。詳細は別稿に譲るが、自治体がマンションの管理不全を防ぐために、管理組合に指導や勧告を行うための根拠法を想定して、「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」の改正が行われている。
地域を巻き込んだ団地再生に関する法整備
団地再生委員会では、一戸建団地を中心に、周辺地域に拡大して(巻き込んで)取り組むことの重要さが議論された。その内容は、集合住宅団地にも共通するものである。ここでは、一戸建と集合を含めて、地域として団地を再生するための法整備について紹介する。
(1)住宅団地再生連絡協議会の発足
郊外住宅団地では、人口減少や少子高齢化を受けて、住宅需要の減退や空き家の増加が懸念されている。その再生に向けて、地方自治体や民間事業者等の関係者が集まり、調査・意見交換等を行うために、2017年1月「住宅団地再生連絡会議」が設立された。国交省が事務局となり、横浜市が会長を務めている。そこで様々な先進事例の紹介や講演が行われ、その成果は団地再生委員会の基盤となり、さらに以下の法整備につながっている。
(2)地域住宅団地再生事業の創設
郊外住宅団地では、住宅需要の減退に加えて、高齢者施設や公共交通が不十分な場合が多い。このため、施設整備を含めて地域全体の魅力を高めることが重要になる。
そこで、「地域再生法の一部を改正する法律」が制定され(2020年1月施行)、「地域住宅団地再生事業」が創設された。これは、市町村が、区域を定めて多様な主体と連携して事業計画を作成するもので、団地再生に係る各種行政手続をワンストップ化し、迅速に再生を実現することを狙いとしている。
具体的な措置としては、建築用途に関する規制緩和、介護関連事業やコミュニティバス等の行政手続きの簡略化、UR都市機構による市町村へのノウハウ提供がある。さらに、住宅市街地補助事業に住宅団地ストック活用型を設け、補助金の充実をはかっている。これらを通して、郊外住宅団地の再生が進むことが期待されている。
(3)今後の課題:再生の担い手の権限のあり方
今後の課題として、再生を担う地域組織に一定の権限をもたせる法整備がある。例えば、衰退地域では、様々なサービスが市場原理では成立しにくい。これを解決するために、公的補助に加えて、住民が資金を出して支援する仕組みが必要と考えられる。
例えば、マンション管理組合では、管理費等の支払いは義務であり、共用施設の整備も多数決で実施できる。しかし、自治会や協議会にはその強制力は無い。この場合、有志が資金を出したとして、その恩恵は住民全体に及ぶ。つまり、フリーライダーを生むことになる。このような構図では、資金負担を求めることは容易でないであろう。
そこで、米国のHOA(住宅所有者組合)のように、一戸建住宅地であっても管理組合と同等の組織が設立できる法整備が一案となる。さらに将来は、小さな自治体としての権限の付与についても議論になろう。
おわりに-団地再生の公益性の壁:私権制限の難しさ
以上、団地再生の事業範囲と法整備のあり方について検討した。もちろん、法整備は緒に着いたばかりである。積み残し課題として、団地再生事業法の創設、敷地分割や一団地認定の見直し、地域組織の権限のあり方、その他がある。さらなる検討が望まれる。
最後にひと言。今回の法改正にあたり、国交省の方々は理想形の実現に向けて大変な努力をされた。しかし最後は、私的所有権を絶対視する法解釈の壁に阻まれたと筆者は認識している。団地再生の公益性、つまり所有権に制限を加えうる公益性があることは、我々関係者にとっては自明であるが、しかし、それが十分に浸透していない。
今後、廃墟となった団地が出現すれば、一気に風向きは変わるであろう。しかし、必要なことは、廃墟を生み出さないための事前の取り組みである。団地再生の公益性について、さらに多面的に議論を深めることを今後の課題としたい。
参考文献
1)住宅団地の再生のあり方に関する検討会の取りまとめ。第Ⅰ期2016年、第Ⅱ期2019年
2)解消制度特別研究委員会「マンション解消制度」マンション学60号、pp.107-123、2018年5月