KOBAYASHI HIDEKI'S COLUMN 2020

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2020.10.14 マンション管理センター通信 2019年10月号より

管理不全マンションが身近になってきた

(掲載にあたって)
 管理不全マンションが話題になり、自治体による条例制定も始まっています。また、今年、国が管理不全マンション対策を想定して建替え等円滑化法の改正を行いました。それらの背景と課題をまとめています。

はじめに-マンションの管理不全が話題になっている

 管理不全の予防を目的として、自治体がマンション管理条例を制定する動きが活発である。東京都は、2019年3月に条例を制定し、2020年4月から古いマンション(1983年以前)の登録を開始した。その先陣をきったのが2012年制定(2013年7月施行)の東京都豊島区「マンション管理推進条例」である。こちらは6戸以上の全マンションを登録対象としている。その後、板橋区、墨田区などが続いており、これら条例制定とともに、専門家派遣等の支援策の充実も進められている。

 このような動きは、管理不全問題が身近になってきたことを実感させる。一方の関西でも、条例の形はとらないまでも、管理不全マンションの調査や支援策は充実しつつある。

都市部でも発生している管理不全

 ところで、マンションの管理不全とはなんだろうか。筆者の定義は、「管理組合の機能不全により建物劣化が放置されている状態」である。つまり、管理組合の機能不全と、建物の不全状態の2つが同時に生じている状態である。

 筆者らは、2015年から日本マンション学会に特別研究委員会を設置し、管理不全マンションの調査に取り組んだ(注1)。その時に着目したのが、越後湯沢のリゾートマンションである。スキーブームが去って管理不全の実例がみられたからである。さらに、松本恭治先生を通して地方都市郊外の管理不全マンションの実態にも着目した。それらの成果を、都市部での将来の管理不全を予見するものと位置づけようとした。

 つまり、当時、都市部での管理不全は将来の問題と考えていたのである。バブル時代を除けば、マンションは地価が高い好立地に供給されることが多い。このため、郊外の一戸建住宅において、空き家問題が顕在化するほうか先であり、マンションの管理不全を懸念する状況ではないと考えていた。
 しかし、その認識が誤りであることが判明した。マンション学会の代議員の協力を得て全国調査をした結果、大都市部でも管理不全が顕在化していたのである。

管理不全の理由:投資用と大口所有者

 なぜ、住宅需要が期待できる好立地でも管理不全が発生するのだろうか。その理由は、マンション管理は所有者の合意形成が求められることにある。このため、以下の理由で管理組合が機能不全に陥り、それが建物劣化の放置を引き起こしている。


 管理不全マンションは、右の様々な理由により管理組合の機能不全と建物修繕の放置が生じることで顕在化する

 第一が、投資用マンションである。管理会社は、マンションを分譲した会社であることが多く、倒産することが珍しくない。しかも、所有者が全国に分散して管理組合の実態が無く、倒産すると対処が難しい。さらに住むのは賃借人である。管理に問題があれば簡単に転居し空き家になる。空き家を埋めるために、一般賃貸では入居を断られる素性の者が住むようになり、しだいに管理不全化が進行する。

 第二が、等価交換等により議決権の多数を占める大口所有者がおり、しかも、それが法人の場合である。ここでの多数とは1/4以上で、管理規約改正などを不成立にできる割合のことである。もちろん、一般地主による等価交換ならば、管理をしっかり行うことが地主の利益にもなる。しかし、法人の場合は倒産等により管理無関心者に転売される場合がある。例えば、利益優先で民泊でも風俗でも何でもありとする所有者である。他の所有者らが管理規約の改正で対処しようとしても議決権に阻まれる。
 筆者の想像にすぎないが、もしかしたら他の所有者が嫌になり破格値で売りに出すのを待っているのかもしれない。それを買収して、最後は建替えや解消で大きな利益をあげる。それが事実ならば、むしろ管理不全化したほうが好都合だ。

 この他にも、火災や欠陥工事による損傷を修繕できない例、地方都市で低層階店舗が空き室になり管理費滞納が生じている例、などがあった。

一般ファミリー向けマンションの管理不全は稀

 一方、好ましい結果もあった。それは、所有者の多くが居住者でもある「一般ファミリー向けマンションや団地」では、管理不全の報告はなかったことである。時々、マンションの空き家が話題になるが、管理費等が支払われている限り問題にならない。つまり、日常の管理をしっかり進めていれば、管理不全は、やはり遠い将来のことである。

 もちろん、管理組合が機能不全に陥る何らかの兆候がある場合は、早めに専門家に相談したい。例えば、反社会的団体の関与、修繕積立金の著しい不足、管理組合の内部対立等である。また、賃貸化の進展が管理不全につながりにくいように管理規約等を見直すことも課題になる。例えば、賃借人への規約等の説明義務、不在所有者の理事免除時の条件、第三者管理の選択等の条項が候補になろう。

やる気がある理事を助ける管理条例

 さて、自治体によるマンション管理条例の話題に戻ろう。これら条例において、私有財産であるマンションに行政が関わる根拠は、次のように説明されている。「マンションは管理不全に陥ると周辺地域に大きな影響を及ぼす。このため、管理不全を事前に予防することが所有者はもとより自治体にとって重要である」。この目的に沿って、行政が各マンションの管理状況を把握しつつ、必要に応じて勧告や支援策を講じている。

 筆者は、豊島区がマンション管理推進条例を制定する際の委員長を務めた。その時に学んだことは、管理条例の制定は、自治体はもとより管理組合側からも要望されているという事実であった。その理由は、以下である。

 マンション管理には当然に必要な事項がある。管理規約の整備と総会の開催、長期修繕計画の策定と積立金の設定、等々。しかし、それを進めるには合意形成が必要になる。さらに、災害対策で居住者名簿を集めようとしても個人情報をタテに拒否される例が少なくない。このため、「マンション管理に当然に必要な事項は義務化して欲しい」との声が、むしろ管理組合側から聞かれる。いわば、管理条例は、「やる気がある理事を助けるもの」である。

 一部では、マンション管理条例に対して、行政の介入し過ぎではないかという批判がある。その時は、まず基本理由として、周辺地域への影響の大きさを説明し、次いで、管理組合の合意形成を促すために、むしろ管理組合側からの要望があることを指摘している。

管理不全の予防から解決策へ

 ところで、以上の条例は、管理不全の予防には効果がある。しかし、実際に管理不全に陥った場合には対処できない。というのは、管理不全マンションでは、管理組合そのものが崩壊していることが多いからである。このため、条例で罰則を定めても受けとめる主体がない。さらに、支援策があっても、それを要請する主体がない。

 このような管理不全マンションの解決には、私権を制限し行政代執行を可能とするような制度が必要になる。例えば、一戸建住宅を対象とした空き家対策特別措置法のマンション版である。さらに、マンションからの要請が無くても専門家を押しかけ派遣し、その専門家が一定の権限をもつような制度が求められる。

 マンション学会の特別研究委員会は、管理不全マンション改良制度(仮称)を提案している。いずれ、国による本館的な検討が必要になろう(注2)。

管理不全マンション再生ビジネスへの期待

 管理不全の解決策として、最終的には行政代執行が必要になるとしても、しかし、それは最後の手段である。まずは、民間市場を通して解決されることが望ましい。
 すでに、現行法に基づいて苦労して管理不全を解決している専門家がいる。その取組には、心から敬意を表したい。とはいえ、大変な手間がかかる業務である。それに見合う収入とは言いがたく、一般ビジネスとして成立しにくいことは否めない。

 そのような中で、住宅需要がある立地ならば、次のような再生ビジネスが成立する兆しがある。それは、管理不全マンションの数戸を安く購入し、管理不全を解決し、その後に高く転売して費用を回収するビジネスである。再生に成功すれば、他の所有者と良好な関係が築け、再生後の管理を請け負うこともできる。このような再生ビジネスについて、コンプライアンスを大切にしつつ取り組む会社が登場すれば、問題解決に大きく寄与するだろう。

 最後にひと言。
 やはり管理不全にならないように予防することが、最も効果的な解決策である。

<注>
(1)マンション学56号「マンションの管理不全と解消制度」2017年。同60号「第5分科会報告」2018年。
(2)小林秀樹「一戸建住宅とマンションの復旧支援の平等性の検証」マンション学40号、2011。