HIDEKI'S COLUMN 2019 NEW

2019.08.01
国交省・団地再生委員会の小林発表資料 2018.6.8より

団地型マンションの再生に向けた法制度の課題と提言

(掲載にあたって)
 国交省は、住宅団地の再生のあり方検討会(第2期)の最終委員会を平成31年3月に開催し、今後に向けた提言をまとめました。本委員会では、委員発表を踏まえた議論も活発に行われました。その中で、私が提言した内容を紹介します。本発表にはマンション全般に共通する提言が含まれています。最終提言においても、団地型はもとより単棟マンションの問題も取り上げられ、本発表が一部反映されています。

建替えが難しい郊外立地のマンション

 郊外立地が多い団地型マンションでは、建替えが困難であることを踏まえて、以下の再生計画が検討されている。これに関する法制度上の課題及び提言を紹介する。

1.団地再生のための改修・処分等の推進について

(1)共用部分の変更に係る特別多数決議の要件緩和: 団地に「福祉施設等」を導入する計画が、賛成7割で否決された例がある(下)。古い団地では、共用部分の変更の議案では、決議に参加しない・参加できない区分所有者が1割程度存在する(入院、相続、法人所有等)。これらは現行法では反対票になるため、決議成立は容易ではない。このため、現行の3/4以上を2/3以上に緩和。または、一定の手続きを経て決議不参加者を母数から除くことが必要である。

(2)共用部分の処分を多数決で可能にする制度の創設: 敷地の一部を福祉業者やコンビニに定期借地する、規約共用部分を購入する、等の要望がある。

(3)リモデリング(専有部分の変更を伴う共用部分の改修)の制度創設: 特別多数決でリモデリングを決議できる制度が必要。1室増築やバルコニー室内化、等の要望がある。

<参考>郊外団地における福祉施設導入計画(共用部分の変更関連)

 下記の目的と経緯を踏まえて、団地の集会室を建替えて、福祉機能を複合した新たな拠点施設を実現する計画を立案。金額を見積もった上で臨時総会にはかった。
・高齢化を受けて高齢者福祉施設導入を計画
・子育て支援機能を併設し多数賛同の見込み
・専門家に発注して建替え計画案を作成
・棟別の小集会を重ねて計画の浸透をはかる
・2012年7月に臨時総会を開催し決議した

 結果は、約70%の賛成が得られたが否決された。内訳をみると、賛成(委任状含む)約70%、反対は約10%、無投票が約20%であった。無投票のうち約10%は、消極的反対と推定。10%は、理事が手を尽くしても無反応であった。

 無反応者の存在(この例では約10%)により、3/4以上という数値は極めて高いハードルになっている。古い団地では、入院、相続、法人所有、遠隔地居住等で、無反応者が一定数存在する。このため皆の関心が高い建替えよりも、共用部分の変更の方が実質的に難しいことがある。このことを踏まえると、古い団地の再生の推進にあたり、決議要件の見直しが必要である。

2.団地再生に向けた敷地分割制度の必要性

(1)団地内に新棟建設を実現するために敷地分割が有効: 中層団地でのエレベーター増設が困難なことを踏まえて、団地内住み替えの推進が団地再生に有効である。そのために、団地内の敷地に高齢者住宅を新設する計画例がある。しかし、専有部分の区画が増えることになるため、現行法では対応困難である。このため、特別の影響を与えないことを条件として、敷地を特別多数決で分筆する制度が必要である。この場合の「特別の影響」とは、接道条件を満たさなくなる等のケースを想定している。

<参考>高齢者住宅の新設に伴い敷地分割が求められる例

 ポンプ室跡地に高齢者住宅を事業者が建設する提案。団地内住み替えにより、エレベーター増設無しでも団地に住み続けられる。本案は、団地所有者に対するアンケートで支持が多かったものである。
 しかし、専有部分を有する新棟の建築であり、現行法では全員同意が求められる。このため、特別多数決による敷地分割制度があると団地再生事業推進が容易になる。なお、現行法で可能な仕組み(共用部分として扱う他)も検討したが、共用部分では管理組合のリスクが大きく合意困難。一方、事業者が建設費を負担する場合は敷地分割が必要になる。

敷地分割しても建築関連規制(接道・斜線・日影等)で問題は生じない

(2)ブロック毎の建替え・再生事業推進のために敷地分割制度が必要: 敷地分割できれば、棟毎あるいはブロック毎に建替え・再生事業を推進しやすい。敷地分割により各敷地の価値が異なる場合は、金銭調整を行うことを想定する。

<参考>ブロック別再生において敷地分割制度の創設が期待される計画例

 主要道路沿いのブロックは、容積率増により建替える。奥の公園に近いブロックは、修繕して現状維持する。中間のブロックは売却して事業費を捻出する計画例。本団地では、団地内に道路が通っており、それを踏まえて敷地の分割を検討した。なお、敷地分割は建築規制上は問題がない。


3.マンション解消制度(特別多数決による区分所有関係の解消決議)の創設

(1)老朽・管理不全マンション、需要減の郊外団地において建替え困難な場合が存在する。現在、被災マンション、耐震性に劣るマンションを対象としている区分所有関係の解消制度について、老朽・管理不全マンションに適用できるように拡張することが必要である。

(2)団地型マンションにおける解消制度: 団地型では、棟ごとに解消しても敷地処分の課題が残る。このため、「一括解消決議」及び「棟別解消決議と敷地分割決議」が必要になる。この場合は、一団地認定の範囲変更も合わせて行うことが必要になる。

<参考>高経年マンションにおいて必要となる制度

 共用部分の変更の決議要件緩和の他に、下図における白い枠の制度は整備されていない(処分、リモデリング、一般老朽マンションの解消等)。さらに、団地型への対応も必要である。

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