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COLUMN 2017 NEW
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2017.12.05 「都市計画」 2016年9月号より一部抜粋
「団地」の歴史的変遷と今日の課題
(掲載にあたって)
近年、団地再生について講演することが多くなりました。講演では具体的な再生手法や研究室プロジェクトを紹介しますが、その基本的な背景を整理しておくことも大切です。そこで、歴史と課題を整理した論文を紹介します。一部を抜粋しましたので、全文は「都市計画」誌を参照して下さい。
はじめに −団地には様々なタイプがある
「団地」には多様なタイプがある。大きくみると、@ニュータウンの住宅街区に建設された集合住宅群(数十戸〜数千戸と多様)、A郊外の大規模集合住宅群(千戸〜5千戸程度。学校等の施設とともに開発された点に特徴がある)、B既成市街地の工場跡地等に建設された大規模高層住宅群(千戸〜3千戸程度)、C小中規模集合住宅群(千戸以下。初期は既成市街地の賃貸団地が多い。昭和50年代以降は分譲が中心となる)、がある。最初に、これらのタイプが生まれた歴史を概観しよう。
・・・以下、中略・・・
今日の団地再生に関わる課題
以上の歴史を踏まえて、今日の団地再生に関わる課題について開発経緯との関連で整理しておこう。
1.団地に併設された学校や商業施設の衰退
高度成長期の大規模団地は、公共施設や商業施設を併設して開発された点に特徴がある。加えて、2DK〜3DKと比較的均一な住宅を短期間に大量供給しており、その結果、新築時は子育て世帯が一斉に入居し、そして現在、一斉に高齢化が進んでいる。これに伴う施設需要の変化への対応が課題となっている。
(1)児童数の減少と学校の統廃合
今日では児童数が激減しており、学校の統廃合やその跡地の利用が課題となっている。
(3)団地商店街の衰退
車社会の到来と近隣での大型商業施設の開設により、団地商店街の衰退が著しい。その空き店舗の活用策に加えて、高齢者等の買物に対応するための宅配サービスや青空市場等の工夫が課題となっている。
2.中層階段室型住棟の特性とその課題
高度成長期の郊外団地は、標準設計として4〜5階の中層階段室住棟を多く採用している。この住棟は住戸外気面の開放性が高く、さらに壁構造が多く耐震性が高いという利点がある一方で、以下の課題がある。
(1)エレベータがないこと
高齢者の増加とともに4・5階の住みにくさが問題となっている。しかし、エレベータ増設は、分譲では費用負担の合意形成が難しく、賃貸では、増設費を家賃で回収できないという問題がある。この問題に対処すべく、高齢者の団地内等での住み替え等が課題となっている。
(2)余剰容積を活用した建替えが難しいこと
中層団地の容積率は、50〜80%程度と低く、増床を期待した建替えが検討されることがある。しかし今日、郊外の住宅需要は減退しており、建替えは経済的に困難である(一部棟の建替えの可能性はある)。このため、既存ストックを活用した再生が重視されている。
3.再生事業における一団地認定の課題
通称「一団地認定」は、団地環境の長期的な維持に寄与する一方で、再生事業の制約になることがある。一団地認定には、次の二つの内容がある。
(1)都市計画法11条による一団地の住宅施設
良好な住環境を維持することを目的として、土地の用途等を都市計画として定める制度である。この認定を受ける団地がみられ、さらに周辺より低容積率に設定されていることが多い。このことが、用途転換や土地利用の高度化をはかる建替え事業等の支障になることがある。この問題に対しては、地区計画に移行することで一団地認定を廃止する手法が定着しつつあり、一定の解決がはかられている。
(2)建築基準法86条による一団地認定
建築基準法は1敷地1建物を原則としており、複数棟が建つ団地は、86条に定める「一団地建築物設計制度」の認定を受ける必要がある。その認定要件として、敷地内通路や住宅の日影条件等が定められている。
団地の一部建物を建替える場合に、この取り扱いが支障になることがある。さらに、賃貸と分譲の併存団地では、両者あわせて一団地認定を受けている例が多く、認定の解除が求められることが多い。しかし、その解除は、所有者全員の利害に影響するため(接道しない敷地が生じたりするため)、原則として全員一致が必要とされる。
国の「団地再生のあり方に関する検討会」の報告(2016年)では、一定の条件を満たせば自治体が職権で認定解除ができる制度を提言しており、その具体化が今後の課題といえる。(現時点で場面を限定した職権解除が実現している)
4.分譲マンション団地における合意形成の課題
区分所有法では、建替えは議決権及び区分所有者数の各4/5以上の特別多数決によるが、建替えによらない再生事業に関しても以下の課題がある。
(1)共用部分の変更における無投票者の存在
建物改修や集会室の建替え等は、共用部分の変更として3/4以上の特別多数決が求められる。しかし、古い団地では、相続、遠隔地居住、法人所有、病気入院、海外居住等により、無投票者が一定割合生じる。これらは反対票にカウントされるため決議成立が困難になることが多い。とくに、建替え決議とは異なり、共用部分の変更程度では投票しない者が多くなると予想される。これを解決するために、無投票者を母数から除く等の法改正が課題となっている。
(2)法律に定めがない再生事業は全員合意
団地内に高齢者住棟を新設したり、敷地をコンビニに貸地したりする事業は、団地の利点を生かした再生手法だが、法律に定めがないため全員合意が原則となる。また、建替え街区と現状維持街区を分ける「敷地分割」についても全員合意が求められる。
以上の課題を解決するために、前述した委員会報告を受けて法改正が進められ、特定行政庁が再生対象団地に認定した場合は、建替え等の決議要件を緩和する措置が実現した。しかし、それを共用部分の変更や敷地分割に適用することはできず、今後の課題となっている。
5.団地は地域の資源である
団地再生にあたり前述の課題を解決することはもちろんだが、同時に、団地ならではの良さに注目することも大切である。とくに、貴重な緑とオープンスペースを有し、千戸以上のまとまりから施設やサービスを整備しやすいことは、団地の内部のみならず、地域にとって暮らしやすさを高めることにつながる。
図は、筆者が描く住宅地の将来像である。大規模高層団地は、市街地居住の拠点として発展しうる一方で、郊外団地についても、郊外の「地域拠点」として発展できる可能性が大きいと考えている。
居住地の4つの将来像
それに向けた具体策を列挙すれば、少子高齢化に対応した施設とサービスの充実、店舗経営を成立させる多機能複合拠点(いなげビレッジ虹と風の事例等)の実現、団地内及び周辺住宅地との住み替えの確立、親子世帯の近居の推進、シェアハウス(筆者研究室の実践等)や2住戸利用による多様な居住面積の実現、等である。その詳細は、筆者研究室のホームページに詳しい。また、参考文献を参照していただければ幸いである。
これらの中で筆者がとくに重視していることは、子育ての場としての団地の再評価である。団地は、オープンスペースはもとより、「自然監視の眼」(都市公園と異なり団地広場は住宅から見えることが多い)という良さをもつ。このことを生かして、地域の子育て拠点とするのである。もちろん、従来の郊外団地は専業主婦によって支えられていたが、今日では共働き世帯が前提となる。このため、保育所や病児保育サービスなどの充実は必須である。これを通して、高齢者を含めて多様な世代が暮らす場として再生すれば、団地は、地域の拠点として発展できるはすである。
参考文献
(1)小林秀樹「人口減少時代における団地の将来像」マンション学53号、PP38-44、2015.12
(2)千葉市・小林研究室「団地型マンション再生マニュアル」千葉市住宅政策課、2007.3