HIDEKI'S COLUMN 2017 NEW

2017.05.10 「住宅」 2015年12月号より

住宅政策の展開と居住支援協議会への期待

(掲載にあたって)
 近年、各自治体で居住支援協議会を設立する動きがみられるようになりました。この協議会は、住宅に困っている方に民間アパートを斡旋するために、自治体、不動産関係者、福祉関係者等が集まって設立するものです。国が推進していますが、思うように広がらないことも事実です。そこで、この政策の趣旨と課題を改めて整理してみました。

はじめに−直接供給から間接供給そして居住支援へ

 居住支援協議会のあり方は、日本の住宅政策におけるセーフティネット(安全網。困窮者への救済策のこと)の展開と密接に関わる。最初に、その歴史を振り返っておこう。

(1)公共住宅の直接供給の時代

 戦後から1980年代までは、住宅困窮者に対する住宅政策は、公共住宅(公営、公団、公社住宅等)の直接供給を課題とした。その中でも、公営住宅が低所得者向けとして位置づく。しかし、その建設戸数は十分とはいえず、大都市では低質な長屋や木賃アパートが実質的な低所得者向けの住まいとして機能していた。

 その後、1980年代になると、公営住宅のあり方について批判が目立ち始める。その背景には、建替え等で公営住宅の質が高まるとともに、恩恵が一部の入居者に限られることへの批判、及び収入基準の超過者が入居し続けていることへの批判があった。もちろん、公営住宅のあり方には地域差が大きく、地方では集合住宅の先導役としての期待や(HOPE計画を参照)、過疎対策等から公営住宅の新規供給が歓迎される一方で、大都市では、用地確保の難しさと公営住宅批判から新規建設は次第に困難になっていった。

(2)公的住宅の間接供給の始まり

 1985年のプラザ合意を契機として日本はバブル経済に突入する。当時、都市部では地価高騰により、中所得者も住宅確保に困る状況が生じた。これを受けて公営住宅批判がさらに高まるとともに、中所得者向けの新たな公的住宅が求められ、民間地主が建設した賃貸住宅を借上げて、中所得者向けに供給する方式が注目された。

 その始まりは、1986年創設の「地域特別賃貸住宅制度」である(1985年に横浜市が先駆的に始めた民間借上方式が契機とされる)。A型は公共団体の直接建設、B型は民間賃貸住宅を借上げる仕組みであった。ただし、当初は、借上げ後の管理は公共団体や住宅供給公社に限定するものであった。

 この借上げ方式を発展させて、1993年に「特定優良賃貸住宅」(特優賃)が法制化された。この時に、賃貸管理を民間法人に拡大することとし、民間賃貸住宅の本格的な借上げ事業が始まることになる。これを政府による直接建設・供給と対比して、「間接供給」と呼ぶことにする。また、公団・公社住宅でも市場家賃化が進められ、この頃から「公共住宅」ではなく、「公的住宅」と呼ぶことが適切となった。

 当時、筆者が参加した東京都区部の住宅審議会では、「借上げでは、家賃補助として年120万円ほどが必要だが、自治体負担はその半分。公営住宅ならば、土地費を含めて数千万円かかることに比べて安上がりだ」という意見が交わされた。つまり、地価を顕在化させない方式として、公的住宅の間接供給への期待が高かったのである。

(3)公営住宅改革の明暗−生活保護制度への接近

 1995年、住宅・宅地審議会は「21世紀に向けた住宅・宅地政策の基本的体系について」を答申した。そこで強調されたことは市場重視への転換であった。つまり、住宅は市場を通して自助努力で確保することを基本とした上で、政府の役割は、その市場が適正に機能するような基盤整備と、市場から落ちこぼれる者を救う安全網(セーフティネット)の整備にあるとする理念である。この頃から、住宅セーフティネットという言葉が政策現場で徐々に使われるようになった。このような動きを踏まえて、1996年に公営住宅法が改正された。おもな変更は以下の4点である。

@公営住宅においても民間住宅の借上げ方式を導入する。
A公営住宅を社会福祉法人等に賃貸してグループホーム等とする方式を導入する。
B従来の第1種(収入基準が高い)と2種(低い)の区分を廃止して「応能応益家賃」を導入する。
C公営住宅に入居できる収入基準を下から25%に引き下げる(それまではT種で33%)。

 以上のうちBとCが大きな変革であり、公営住宅は、低所得者向けの福祉住宅としての性格を強めることになった。その結果、以下の副作用がみられた。

@「応能」(入居者の支払い能力に応じて設定すること)による家賃設定は、収入増加者への対策として期待されたが、現実には、入居者の多数が低所得であるため家賃はむしろ下がった。これにより、公営住宅に入居できた者とできなかった者の不公平は拡大した。また、自治体の家賃収入が大きく下がり、住宅関連予算を圧迫した。
A自治体の家賃減の影響は大都市ほど大きく、自治体からは「応益」(住宅の便益により家賃を上下する仕組み)の効き方が弱く実態にあっていないとの指摘がなされた。
B過疎対策等に公営住宅を活用している自治体からは、収入基準の引下げにより、政策目的が達せられないとの声があがった(裁量階層は40%まで可だが世帯種別に制限。新婚世帯等は対象外)。この問題の解決は、平成23年の地方分権に関する法律により、自治体の裁量が拡大される時期まで待つことになる。

 いずれにしても、近代化の先導役など公営住宅が果たしてきた多様な役割は終焉を迎え、住宅セーフティネットに限定する方針転換が行われたわけである。その結果、生活保護制度と公営住宅の性格が近づくことになる。

 実は、筆者は、1996年から2002年まで、建設省建築研究所で住宅計画研究室長を務めた。その頃、住宅困窮者への対策として家賃補助を導入することが話題となった。実は、旧厚生省が所管していた生活保護制度には「住宅扶助費」がある。これは家賃補助そのものだ。これを受給して民間賃貸住宅に居住する被保護者は多い。しかし当時、それは厚生省所管の別政策という認識であり、同じ住宅セーフティネットとして、公営住宅と生活保護制度を総合的にみて検討すべきことに思い至らなかった。不明を恥じる次第だ。

(4)空き家の発生と間接供給の転機

 さて、借上げ方式による間接供給は、その後、予想しない展開を遂げる。バブル崩壊後の地価下落は、筆者を含めた政策関係者の予想を超えるものであった。しかも、特優賃の制度設計は、家賃補助を毎年減らして、最後は市場家賃の8割以上まで引き上げて経営することを想定していた。このため、特優賃の家賃は順次上がる。その一方で、周辺の民間家賃はバブル崩壊で下がるという状況が生じた。これにより、空き家が大量に発生することになったのである。

 しかし、借上げ期間20年の間は解約できない。このため、空き家を埋めるために、自治体が独自に家賃補助を行う工夫などが試みられた。また、多くの自治体では20年経過後に返却する方針だが、ちょうど建物の大規模修繕が必要な時期にあたり、地主からはその後の賃貸経営を不安視する声が聞かれる。以上を通して、結果をみる限り、残念ながら特優賃という間接供給は、時代変化を読み切れずに失敗であったと評価せざるをえない。

(5)住宅セーフティネット法と居住支援の登場

 そして、2006年に住生活基本法が制定され、次いで2007年に住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)が制定される。これは、わずか12条からなる法律でありながら、これまでの住宅政策の歴史を踏まえた適切な方向を示している。というより、この法律を運用しつつ、以下のように新しい住宅政策を発展できる基盤を提供している。

@住宅確保要配慮者の例示とその意義 : 住生活基本法第6条に従い、本法律では対象者として、低額所得者だけではなく、被災者、高齢者、障害者、子どもを育成する家庭を明示している(第1条)。後者の例示は、従来の公営住宅の裁量階層を踏襲したものだが、改めて読み替えれば、「高齢者、障害者、子育て世帯等は、中所得者も対象とする」ことを意味する。これを生かすことで住宅政策の幅は格段に広がる。

A福祉政策との連携とその意義 : 関連施策との連携、とくに福祉政策との連携を明記している(第8条)。これは、住宅政策と福祉政策の連携が不十分であった歴史を踏まえて、極めて適切な方針であるといえる。

 また、2001年に制定された高齢者住まい法(高齢者の居住の安定確保に関する法律)は、国土交通省と厚生労働省の共管であり、さらに2011年改正で新たに創設されたサービス付き高齢者住宅は、両省の共管事業となっている。並行して、国土交通省と厚生労働省の人事交流が進んでいると聞く。時機を得た方針であると敬意を表したい。

B民間賃貸住宅の対象化とその意義 : 住宅セーフティネットの受け皿として、公的賃貸住宅に加えて、新たに民間賃貸住宅を位置づけている(第4条)。特優貸等の借上げは、公的賃貸住宅に分類されており、民間賃貸住宅は、公的賃貸以外のすべて含む。これは、民間住宅に空き家が増えている現状を踏まえつつ、それらを活用して住宅セーフティネットを充実する方針を示している。

 そして、民間賃貸住宅を活用するための具体的方策として、新たに「居住支援協議会」の設立を示したわけである(第10条)。

居住支援協議会の特徴とは何か

 以上の歴史を踏まえて、居住支援協議会の特徴を整理すると、以下の4つである。

(1)民間賃貸住宅の活用−借上げではない

 第一の特徴は、民間賃貸住宅の借上げ(間接供給)ではなく、住宅確保要配慮者への「入居支援」という点である。入居支援とは、入居が断られることがある一人暮らし高齢者や障害者(理由は、大家が緊急対応等に不安をもつため)、子育て世帯(音の問題等に不安)、低額所得者(家賃支払い等に不安)、その他に対して、安心して貸せるように家賃保証や見守りなどの体制を整えたり、逆に、入居希望者には、受け入れ可能な賃貸住宅の情報をまとめて提供することである。

 ある不動産業者の話を紹介しよう。「入居者集めに苦労する賃貸アパートでは、生活保護世帯の受け入れを歓迎している。理由は、家賃支払いが確実だからだ」。「不安があるのは、生活保護を受けない低所得者と一人暮らし高齢者だ。一般には家賃保証により対応するが、高齢者は簡単ではない」。「孤独死があって清掃しても臭いが消えないで困っているアパートがある。できれば、定期的な見守りがあり、孤独死を避ける仕組みが必要だ。それがあれば、安心して大家さんは貸せる」。このような課題への対応が、居住支援協議会のテーマといえる。

(2)既存住宅の活用−空き家活用の推進

 第二の特徴は、空き家を活用して住宅セーフティネットを充実することを狙いの一つとしていることである。そのために、改修費補助を行う制度もある(民間住宅活用型住宅セーフティネット整備推進事業等)。以上のように居住支援協議会は、入居者側への支援だけではなく、大家側への支援という側面をもつ。

(3)福祉関係者との連携−試行錯誤が大切

 居住支援協議会の構成員として、行政と宅地建物取引業者等に加えて、民生委員や社会福祉協議会等を想定している。住宅確保要配慮者の情報収集、空き家をグループホーム等に活用する場合の社会福祉法人やNPOとの連携、前述した見守りの実施など、福祉関係者への期待は大きい。しかし、実際にどのように連携し、その費用をどのように手当てするかは、今後の試行錯誤のテーマとなっている。

(4)自治体の政策目的との連携

 居住支援協議会では、一般的な居住支援に加えて、自治体の政策目的に沿った重点的な取り組みを行うことが期待される。例えば、空き家活用を重視する自治体であれば、空き家バンク等との連携が検討され、子育て世帯の移住を推進する自治体であれば、独自の家賃補助との連携が考えられる。

 このように、住宅セーフティネットの充実に加えて、各自治体の政策目的を重視することが、居住支援協議会を設立する意義をより明確にするといえる。

居住支援協議会の支援対象者は誰か

 ところで、ここで疑問が生じるだろう。民間賃貸住宅の活用であれば、それなりの家賃が必要になる。果たして住宅セーフティネットとして活用できるのだろうか。この疑問に答えるために、住宅確保要配慮者を所得階層別に整理しておこう。

(1)住宅セーフティネットの対象階層

 下図は、住宅セーフネットの対象階層とその主な住宅問題を整理したものである。


住宅確保要配慮者とその住宅問題

@最下段は「生活保護」の対象である。外国人は法律が規定する「国民」ではないため除外されるが、永住・定住外国人等は、行政措置により保護対象としている。

Aその上に「公営住宅」の本来階層(収入分位25%以内)が位置づく。両者の最も大きな違いは資産の有無である。生活保護の対象者は資産を有さないことが原則で、そのための資産調査が行われる。しかし、公営住宅は貯金があっても構わない。収入が基準以下であれば入居資格がある。

 ちなみに、公営住宅に入居している生活保護世帯は、約1割と少ない。その理由は、生活被保護者に単身者が多い一方で、公営住宅は同居親族がいる世帯の入居が原則であったためと考えられる(平成23年に同居親族要件は廃止)。

B高齢者、障害者、子育て世帯等は、収入分位50%までが目安となる(平成23年の公営住宅法改正で裁量階層が自治体判断により40%から50%に拡大されたことを参照して)。

(2)各階層の住宅問題とは何か

 以上の各階層において、どのような住宅問題が生じているのだろうか。

@若者貧困層では、安価な家賃を求めて劣悪な住環境を余儀なくされる「インターネットカフェ難民」や「違法レンタルルーム問題」等がある。さらに、中高年単身者の「ホームレス問題」や生活保護世帯を囲い込む「貧困ビジネス問題」がみられる。
A大都市の公営住宅では、競争率が高いため入居できた者とできなかった者との「不公平問題」が大きい。さらに、長年住み続ける過程で一人暮らしになる世帯が多く、広いファミリー向け住宅を有効に活用できていない。これは、「ミスマッチ問題」といえる。
B外国人では、賃貸借契約に従わずに多人数がルームシェアをしている例がある。さらに日本語が通じず近隣トラブルもみられる。これらを「違法同居問題」と呼ぶことにする。
C中所得者であっても、前述したように「入居お断り問題」がある。さらに、子育て世帯や母子家庭等では、必要な住宅広さの家賃が高くて払えない「高家賃問題」が根強い。また、高齢者においても、良質のケア付き住宅は、家賃や入居一時金が高いため同様な問題がある。

居住支援協議会の取り組み−住宅問題の解決

 以上のような各々の住宅問題の解決が、居住支援協議会に期待されるわけである。下図は、都市部を想定して、その対策を描いたものである。


住宅セーフティネットの実現方法

(1)空き家・空き部屋活用による低家賃住宅の提供

 低所得者にとって、家賃の自己負担は2〜4万円が限度であろう。これを新築住宅で実現することは困難であり、第一に「空き家活用による低家賃住宅」を求める必要がある。また、今日、広い家に高齢者が一人暮らしする例が増えている。その「空き部屋」を提供することで、安い家賃を実現する一方で、高齢者にイザという時の安心を提供するホームシェアと呼ばれる新しい工夫もある。これも有力な解決策であろう。

 なお、生活保護による住宅扶助費は、単身者の場合、東京で53700円(今後引下げ予定)、富山市で3万円(同)である。単身用住宅を確保できる水準といえるが、問題は、むしろ生活保護を受けていない低所得者等に適切な住まいを提供することである。

(2)大都市では家賃補助かシェア居住による負担低減

 しかし、大都市では、空き家活用を工夫しても家賃は高くなる。このため、家賃補助を行うか、あるいは「シェア居住による低家賃住宅」の可能性を探ることが必要になる。例えば、3DKで家賃12万円であれば、3人がシェアすれば一人4万円になる。

(3)良い貧困ビジネスと悪い貧困ビジネスの区別

 シェア居住による低家賃住宅は、すでに生活被保護者を囲い込む貧困ビジネスとして広まっている。その詳細は省略するが、その中で、よい貧困ビジネスと悪い貧困ビジネスを区別することが必要になる。
 しかし、その客観的基準を定めることは難しく、筆者は、居住支援協議会を通した個別登録が有効であると考えている。この場合、良い貧困ビジネスとは、建築基準法等の法規を満たした上で、@生活保護世帯も非保護世帯も一緒に入居している(家賃が適正な証)、A自立支援活動がある(囲い込みではない)、B運営を公開している、のうち一つは満たすことと考えている。

(4)中所得者向けの共助の暮らしの推進

 中低所得者が、負担可能な家賃で豊かで安心できる暮らしを実現するために、「共助の暮らし」を追求することも重要なテーマである。例えば、母子家庭のシェアハウスがある。互いに情報を交換しつつ、ベビーシッターを共同で雇えば安上がりになる。
 また、高齢者のグループリビングやホームシェアは、生活に潤いと安心を提供する。さらに、空き家活用型グループホームは、福祉政策の観点からも拡大したい事業である。

 居住支援協議会においては、モデル事業等を通して新しい住まい方を周知したり、これらの募集情報を提供したり、優良業者を登録したりすることが有効な活動となるだろう。

(5)公営住宅の役割の再編

 以上を通して、民間住宅を活用した住宅セーフティネットが充実すれば、いずれ公営住宅との関係の整理が必要になる。その段階では、筆者は、公営住宅は子育て支援に重点化しつつ中所得者を含む階層ミックスを進めることが適切と考えている。その場合、定期借家を活用すれば、多くの子育て世帯が公営住宅の恩恵に浴することができる。
 一方の高齢者は、公営住宅ではなく、空き家活用型のグループリビングやグループホームを想定したい。そこでは部屋は狭くても、暮らしを支えるサービスやコモンスペース、人と人の交流がある。

 これからの都市部の住宅政策の鍵は、空き家・空き部屋活用型の住宅セーフティネットの充実と、公営住宅の子育て支援への重点化であると確信する次第である。

東京豊島区の居住支援協議会の活動

 大都市での例として、筆者が会長を務める豊島区の居住支援協議会の活動を紹介しよう。

(1)空き家活用モデル事業に取り組む

 豊島区の居住支援協議会では、空き家活用モデル事業を実施している。第一期は、高齢者グループホーム、コレクティブハウス、母子家庭のシェアハウスの3件が採用された。いずも空き家活用によるシェア居住によるアフォーダブル(支払い可能)家賃の実現を狙いとしている。しかし、後述する理由で残念ながら実現には至っていない。

 そこで、母子家庭の住まいについては、区が家賃補助を行って一般賃貸マンションへの入居支援を実施し、育児相談などのサポート活動を試行している。

(2)建築基準法の取り扱いが最大のネック

 モデル事業が実現できない最大の理由は、利用可能な空き家がないことである。正確にいえば、空き家はあるが、建築基準法に適合させることができないため対象外になることである。

 今回の提案は、いずれも建築基準法上は住宅ではなく「寄宿舎」扱いとなる(2013年9月の国土交通省の技術的助言に明記。詳細は省略)。この場合、住宅からの用途転用となり現行建築基準に適合することが求められる。豊島区では密集地にあり接道条件が不適格となる空き家が多い。さらに、東京都安全条例で定める窓先空地の確保が困難である(これは2015年4月に緩和された)。これら要件は、建物改修では対応できないため、空き家家活用は断念せざるをえない。そして、このような空き家は、行政が関わる事業に用いることはできず、行政が関知しない世界で貧困ビジネス等の場として利用されることになる。

(3)空き家活用条例で問題を解決する

 この問題は、建築基準法や政令に明記されていない「建物用途の判断」に関わっている。つまり、既存住宅を用いたシェア居住について、用途を何と判断するかの問題であり、数人程度のシェア居住であれば、寄宿舎とするのは過剰規制ではないかという判断にも合理性がある。
 実際、国土交通省の2013年通知はあくまで「技術的助言」である。つまり、地方分権一括化法により、建築基準法の運用は特定行政庁(自治体)に委ねられている。それに対する助言であり、地域の実情に照らして、特定行政庁が最終判断を行う。

 しかし、用途判断を建築主事(審査を担当する個人)が勝手に行うことはできない。まして、技術的助言が通知されれば、建築主事はそれに従う。もし、空き家活用のために自治体独自の用途判断が必要であれば、「どの程度の空き家活用までを住宅と判断するのか」という基準を明確にすることが必要になる。加えて、建築基準法上は「住宅」と判断しつつ、別途、自治体独自に守るべき基準を示して、事業者及び利用者の自己責任で遵守する仕組みも有効である。このような方針については、できれば条例とすることが望ましい。

 現在は、家が余る時代でありながら、それを住宅セーフティネットとして合法化して活用できないのが現実である。これでは、居住支援協議会の価値が半減する。むしろ、行政が関知しないところで空き家活用を進めた方が、人々の要求に沿った住まいが提供できる。このような矛盾を「空き家活用条例」で解決することが必須といえる。なお、福島県、愛知県、鳥取県は、空き家活用によるグループホームについて「住宅」扱いとする措置をとっている。英断であると評価したい。

おわりに

 以上を通して、居住支援協議会(以下、協議会と記す)への筆者の期待をまとめよう。

@民間賃貸住宅を活用した住宅セーフティネットの充実は時代の要請であり、協議会の設立を積極的に進めたい。
A協議会において、行政や宅地建物取引業者に加えて福祉関係者等(NPOを含む)が参加することで、住宅セーフティネットに取り組む協働の基盤ができる。
B協議会の活動は、自治体による支援策(家賃補助や空き家バンク等)と連携させることでその効果が大きくなる。
C協議会では、既存住宅の活用(空き家・空き部屋活用)に取り組むことが重要である。
D空き家活用においてシェア居住を実現することが、大都市での低家賃化の鍵となる。また、地方都市においても、空き家活用による高齢者グループホームにみるように、これからの時代に求められる共助の暮らしの具現化として推進することが望ましい。
E空き家活用における建築基準法等の問題を解決するために「空き家活用条例」の制定が求められる。それにより協議会は真に力を発揮することができる。
F生活保護者に住まいを提供する事業(貧困ビジネス)の中で、適正に展開する事業者を協議会が登録する活動を行うことも一案である。
G以上と並行して、公営住宅の位置づけを子育て支援に重点化する等の検討を行う。

 居住支援協議会の活動は始まったばかりである。各地域における様々な工夫が蓄積されていくことを願う次第である。

参考文献

1)小林秀樹「住宅セーフティネットをどう再構築するか−空き家活用によるNPO住宅を拡大する」社会運動393、pp26-35、市民セクター政策機構、2012.12.

2)切原舞子・小林秀樹「公営住宅政策と生活保護政策の連携に関する研究‐新制度導入に伴う自治体財政への影響の検証‐」日本建築学会住宅系論文集、2012.12

3)小林秀樹「都市部の市街地における空き家問題の解決に向けて」自治体法務研究No.36、pp.19-27、2014.2

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