2015.11.25 公営企業 2014年10月より
人口減少時代のまちづくりと空き家活用
(掲載にあたって)
空き家対策は、コンパクトシティを目指すまちづくりと密接に関わっています。この原稿は、これまで私が発表した内容を採録しつつ、まちづくりの観点から空き家問題を考察した最初のものです。
人口減少に伴う都市の選択と集中
全国的に空き家が増えている。その背景に人口減少があることは言うまでもないが、もう一つ、自治体運営に影響を及ぼす原因がある。それは、自治体内のどの場所に住むかという「居住地の選好」がみられることである。その結果、選ばれる場所は、人口減少時代であっても住宅の新規建設が行われる一方で、取り残された地域には空き家が増えることになる。
人口減少は、まんべんなく都市を縮小させるわけではない。発展する地域と衰退する地域の格差を拡大させつつ2極分化を伴って縮小が進むのである。さらに、自治体内の地域格差にとどまらない。自治体間の競争を伴いつつ、発展する自治体と衰退する自治体の格差を拡大させることになる。
このような時代のまちづくりは、自治体に厳しい選択を迫る。自治体内のすべての地域を維持・発展させようとすれば、財政の悪化は避けられない。つまり、人口減少下で、公共施設・インフラ(道路や上下水道等)・福祉サービス等(まとめて公共サービスと呼ぶことにする)をまんべんなく提供しようとすれば、一人当たりの維持コストは高くなる。
その逆に「選択と集中」、つまり人口を一部地域に集約するならば、公共サービスの利用効率は高まり、一人当たりの維持コストは下がる。しかし、これは公共サービスを縮小する地域を生み出すことにつながり、住民の合意を得ることは難しいだろう。
つまり、いずれの方針も容易ではない。その結果、放置することが現実的な選択になる。放置するとは、地域の選別を市場にゆだねることであり、人々の居住地選択を通してゆっくりと「選択と集中」が進むことである。そして、限界を超えた衰退地域が生じた段階で、学校を始めとした公共施設の廃止やインフラの維持更新をあきらめ「仕方のない」撤退を行うことになる。
都市構造の転換が求められる
しかし、このような市場にゆだねた選別は、必ずしも良い結果を生み出さない。その理由の一つは、選択と集中は長い年月をかけて進むため、その間はまんべんなく公共サービスを維持する必要があり、財政の悪化が進むことである。
加えて、もう一つの理由は、限られた公共投資を効果的に用いることができず、中心市街地も郊外も同じように衰退し、自治体間競争に破れることである。
では、どうすべきだろうか。答えは自明のように思える。困難であっても、人口減少社会に相応しい都市構造への転換を、政策的に進めることである。以下、詳しく紹介しよう。
政策目標としての多極型コンパクトシティ
人口減少時代における街づくりの目標は、「多極型コンパクトシティ」であると考えている。コンパクトシティとは、都市の中心地に集積がなされるように、選択と集中を進めることである。そして、「多極型」とは、その中心地が一つではなく、複数形成される目標像である(図)。
中心地には、インフラの整備・更新はもとより、生活サービス、公共・福祉施設、高齢者向け住宅等を集約させ、一定の人口の集積を維持することを想定している。
もちろん、この多極型コンパクトシティは、机上の提案としては成立するが、現実に実践しようとすると、非中心地から「見捨てるのか」という疑問を投げかけられる。しかし、非中心地にとっても、中心地とは異なる豊かな自然と広い住まいをもつ田園地域として、むしろ魅力を発揮できる可能性がある。
そこが集落ならば、かつての暮らしの良さを取り戻すことであり、さらに、週末別荘等の需要を取り込んで、ゆとりある田園地域として発展する道もあろう。
多極型コンパクトシティとは、都心から郊外にかけて似たような光景が広がるのではなく、それぞれが明確に異なった特色をもつ街づくりのことである。
多極型コンパクトシティのイメージ
現状から−二極分化は進行している
まず、都市が縮小過程に入るときの現状を確認しよう。そのためには、人口と世帯数の両面からみることが必要である。というのは、空き家・空き地の増加に影響するのは、直接的には人口減少ではなく、世帯数の減少だからである。
周知のように、人口は減っても、単身世帯の増加により、世帯数は減らない地域が多い。それどころか、三世代家族の分解や結婚しない若者の増加によって、人口減少下であっても世帯数は増え続けている地域が多い。
そこで、筆者が居住する茨城県を例にとって実態をみてみよう。常磐線に沿って東京に近い方から順に、東京通勤圏の取手、牛久、土浦、その先の石岡、県庁所在地の水戸、企業城下町の日立、そして高萩の各自治体を取り上げる。それらに加えて、常磐線から外れた田園地域として大子を含めている。全国の縮図としてご覧頂ければと思う。
地域別にみた人口と世帯数の関係(茨城県 2008〜2013)
上図は、各市の地区割ごとに人口と世帯の5年間の増減率をプロットしたものである。地区割は、各市が採用している区分(小学校区や中学校区が多い)を踏まえて、千世帯を超えるように近接地区をまとめたものである。その結果、次の3つのタイプがみられる。なお、第4象限、つまり「人口が増加、世帯数は減少」という地域は存在しない。
@第1象限 人口も世帯も増加している「発展地域」
A第2象限 人口は減っているが、世帯は増加している「猶予地域」
B第3象限 人口も世帯も減っている「減少地域」
この3タイプの特徴を順にみていこう。
(1)第1象限「発展地域」
人口減少時代においても、人口が増えている地域である。その筆頭は、主要駅の近辺である。中核都市である水戸と土浦、その近接駅である内原とひたち野うしく駅の周辺である。これら地域では、マンション建設を中心に新規住宅供給が行われている。
もう一つの発展地域が、中核都市の郊外開発地である。つまり、依然として郊外スプロールが続いている状況がわかる。
(2)第2象限「猶予地域」
人口が減少しているにもかかわらず世帯数は増えている地域である。夫婦のみ世帯や高齢者の一人暮らしが増えており、多くの既成市街地がこれに該当する。さらに、旧ニュータウン(昔の新興住宅地)も同様な状況にある。将来の衰退地域への移行が懸念されるため、「猶予地域」と名づけた。
(3)第3象限「減少地域」
人口も世帯も減っている地域である。各自治体の農山村部が該当している。加えて、注目すべきは、旧ニュータウンにおいて、第3象限に属する地域が生じ始めていることである。かつてのニュータウンは、一斉に同年代が入居し、そして今日、一斉に高齢化が進んでいる。しばらくは、高齢者のみ世帯が増えるだけで世帯数は減らない。しかし、高齢世帯が老人ホームに転居したり、世代交代したりすると、空き地・空き家が増え、世帯数そのものが減少をはじめることになる。
茨城県全体の人口は平成15年頃をピークに減少期に入っている。それにも関わらず、マンション供給による主要駅周辺と、新規開発が続く中核都市の郊外で人口増がみられる一方で、農山村部と旧ニュータウンでは、世帯数が減少をはじめている。つまり、二極分化が進行しているのである。
空き家の増加は人口減少の影響ではない
では、空き家も同様な傾向を示すのだろうか。そうではない。最も空き家率が高いのは、土浦市で21.9%、5年間で7%増加している。次いで、水戸市で18.7%、5年間で3%の増加である。
水戸市は人口増が続いており、土浦市は微減だが世帯数は増えている。これら主要都市で、空き家が増えているという意外な結果は、何を意味するのだろうか。
土浦市を例にとって考えてみよう。空き家数は平成20年で14710戸であり、25年は近く発表される(追記:空家数は11700戸、空き家率17.2%と下がった)。特に空き家が目立つのが賃貸アパートである。人気地区でのアパート新築が続いている一方で、立地が悪く古いアパートが空き家になっている。その結果、アパートは5年間で、なんと1.8倍の戸数が空き家になっているのである。
土浦市は、現在、急激に都市構造の変化がおきている。東京まで1時間程度の通勤圏内にあるため駅前居住の人気が高い時期があり、平成20年頃まではマンション開発によって駅前の人口増が進んだ。これと並行して、農村部や旧ニュータウンが衰退し、駅前市街地への集中が進むかにみえた。
しかし、平成21年に郊外大型店が開業し、駅前の商業が壊滅的打撃を受けた。さらに、つくばエクスプレスの開業とともに、その沿線に人口が流れ、駅前居住の優位性は失われた。その一方で、郊外大型ショッピングセンター周辺での新規アパート建設が行われている。つまり、商業の重心が動いた結果、街の中心が拡散し、新規開発と空き家の増加が同時に発生しているのである。
地方都市では、郊外大型ショッピングセンターの登場によって、土浦市と似たような状況であることが多いだろう。
駅前市街地の価値は低下し、逆に、自家用車の利用が便利で、かつ大型ショッピングセンターに行きやすく、学校等も整備されている近郊の住宅地が人気になる。もちろん、新規開発が継続することで一時的に地域経済は活性化する。しかし、長い目でみれば、どうだろうか。
都市の圏域は広がり、将来の都市インフラの維持費負担を増やす。加えて、地域文化を感じさせる旧市街地はシャッター通り化し、全国どこでも似たような街の光景が広がる。そして、全国どこでも同じならば、より人口が多い大都市の魅力に人々は吸引される。
つまり、一時的な活性化と引き替えに、既成市街地と地域文化という将来の生き残りのための貴重な地域資源を失うことになる。
二極分化は多極型コンパクトシティにつながらない
茨城県の実態からみるように、発展する地域と衰退する地域は、自然に選別されつつある。それがさらに進むと多極型コンパクトシティに自然と収斂するのだろうか。
残念ながらそうではない。確かに、中心市街地が発展すれば、コンパクト化への一里塚となり、その兆候は一部には存在する。しかし、多くの都市では、人口減少下であっても郊外へのスプロールが続いている一方で、中心市街地はシャッター通り化して衰退の危機にある。
全体をみれば、「拡散しつつ街の中心を失う」という状況であり、中心地を生み出そうとする多極型コンパクトシティとは逆行している。その先に待ち受けるのは、恐らく、自治体間競争における敗北だろう。
人口減少時代のまちづくりは、好むと好まざるとに拘わらず、集中と選択を必要とする。そして、その目標像は現状の延長にあるのではない。政策的に進めることが不可欠なのである。
中心市街地活性化の悪循環を乗り越える
多くの自治体が取り組んでいる具体策として、中心市街地の活性化がある。
多極型コンパクトシティの一つの極は、中心市街地とすることが自然である。その理由は、これまで整備してきた都市インフラを効率的に活用できることに加えて、その都市の顔としての役割が期待できるからである。
とはいえ、中心市街地の活性化策には以下の悪循環がある。それは、衰退して空地が増えている中心市街地で再開発を進めれば、その時点で駐車場経営を最適な土地利用にし、再開発にブレーキをかけるという悪循環が生じることである(図)。
例えば、古くから発達している都市では、現在、駐車場経営がもっとも有利な土地利用になっている。もともと駐車場がないため、商店用に加えて住民用の需要が多いからである。このため、空き地は駐車場として経営すればよく、地主層に危機感はない。
筆者は、この悪循環を抜け出すには、中心地の駐車場経営に対する課税強化(ムチ)と同時に、その税収入等を用いて公共駐車場の整備を行うことが必要と考えている。これにより、空地の売買や、住宅その他の用途への転換を推進できるからである。
ちなみに、商業・業務系の再開発は、失敗する事例が多い。当面は、郊外の大型ショッピングセンターの魅力に敵わないからである。このため、現実的な活性化策は、住宅を増やすことである。それにより、中心地に人口が増えれば、近くでの買い物客も増えるはずである。
中心市街地の活性化策の悪循環
とはいえ、以上のような活性化策に地主層の抵抗は強い。実は、筆者が知るある都市では,中心市街地の活性化をはかるべく公共駐車場を整備し、その賃料を安くしようとしたところ、周辺地主(駐車場経営者)とその支援を受ける議員が反対して、これを阻止した。駐車料金を下げれば民業圧迫になるというのが、その理由である。
恐らく、この都市では空洞化がさらに進み、いずれ駐車場経営さえも成り立たない段階に転落するだろう。中心市街地の地価はさらに下落し、地主層は目先の利益によって、将来の利益を失ったことに気がつくはずである。
現在進められている中心市街地の活性化策の多くは、アメ(補助金やインフラ整備等)によるものである。しかし、前述のようにムチを伴わない活性化策は、既存地主の利益につながるだけで、街の活性化の効果は限定的である。
土地利用の転換を促すためには、アメとムチの組み合わせが不可欠といえる。都市計画と政治の英断が求められる所以である。
大規模団地による新拠点(郊外拠点)の形成
多極型のもう一つの中心地の候補は、大規模な住宅団地である。一定の人口集積があるため公共はもとより民間サービスが成立しやすいからである。
これら団地は、必ずしも駅近くにあるわけではないが、しかし、定年後の生活を考えれば、鉄道駅に近いことは必要条件ではない。また、地方都市では、車利用が中心である。このため、駅に近いことより「歩いて暮らせる」範囲に必要な施設・サービスがそろっていることが重要であり、郊外での生活拠点の形成は十分に可能である。
具体的には、一定の公共サービスが設備された既存の住宅団地において、さらに、高齢者関係の福祉施設やサービス、子育て支援サービス等を充実する。また、周辺地域から老後に転入可能なように、高齢者住宅の整備を進める。もちろん、多様な商業施設が立地する必要があるが、当面は大型ショッピングセンターに押されて経営が成り立たなければ、宅配サービスの充実をはかることが一案である。いずれ高齢者と子どもが増えれば、歩いて暮らせる範囲に一定の商業・医療施設が整備されるはずである。
その具体例として、千葉大学近くにあるUR都市機構の園生団地の試みを紹介する。住宅数は226戸と多くはないが、周辺に一戸建住宅地が広がり、郊外の地域拠点として期待できる立地である。そこでは、古い団地を高層住棟に建替えて生じた空地に、生協グループが「多機能複合拠点」を実現した(2011年7月開設)。これは、高齢者住宅、福祉施設、子育て支援施設、診療所、カフェに加えて、生協スーパーを複合したもので、地域活性化の拠点となることが期待されるものである。
筆者の研究室で、この施設の完成前後での地域住民の生活の変化を調べたところ、全般的にコミュニティ活動が活発になり、さらに老後の安心感が高まっている。
加えて、特筆すべき点は、4割程度の利用者が複数施設を同時に利用していることである。例えば、高齢者住宅にとっては、近くにスーパーがあることで利便性を高め入居希望者を増やし、逆に、スーパーにとっては、他施設の利用者が買い物をする「ついでの需要」が期待できる。
実は、この団地では、車で15分程度のところにある大型ショッピングセンターの影響により、スーパーが経営不振になって撤退したことがある。つまり、単独では商業施設が成立しないとみられていた。
これに対して、多機能複合施設として整備すれば、相乗効果が期待できる。前述の4割という数字は、その相乗効果がうまくいっていることの表れである。現在、複合施設全体としては経営採算が成り立っているとのことである。これにより、多極型コンパクトシティにおける郊外拠点の形成に向けて一歩を踏み出したわけで、今後の展開が楽しみな事例といえる。
自治体政策においては、多極型コンパクトシティの形成に向けて、福祉施設の立地が重要であることを踏まえ、それを中心市街地と郊外拠点に誘導することが望ましい。
田園居住地を形成する
一方の非中心地は、豊かな自然に囲まれた、ゆとりある田園地域として再編することが求められる。
これら地域では車利用が前提になるが、老後に車の運転が不自由になれば、気楽に中心地に転居することが想定される。これは、いわばアメリカの郊外住宅地のあり方である。つまり、老後はリタイアメントコミュニティに気軽に転居するライススタイルが定着することで、逆に、田園居住の意義を明確にできる。
そこでは、市街地とは明らかに異なるゆとりの住まいが求められる。しかし、従来の郊外住宅地では、敷地面積200u程度が多い。これでは、市街地の環境とそれほど変わらず魅力に欠ける。
隣家との窓の見合いなどを気にする必要がない独立住宅としては、敷地面積が最低で300u、できれば400〜500uは必要である。そうすれば、中心市街地とは明らかに異なる環境をもつ住宅地として一定の人気を維持できるだろう。
今日、世帯数が減るのであれば、むしろチャンスである。2つの敷地を一つに合体すると、ちょうど田園居住が求める広さになるからだ。
これにより、人口減少をむしろ豊かさに転換するのである。敷地の合体は、実際に発生しつつあるものの、その展開は遅い。政策的に誘導することが望ましいと考えている。
国の政策課題の一つは、固定資産税の小規模宅地の軽減について、全国一律で200uとすることの見直しである。本来は、地価が安い地域では広く、地価が高い都心では狭くすることが合理的である。
もう一つは、隣地購入または敷地交換に関する不動産取得税や登録免許税の免除・軽減などの措置である。
これらの国の政策とあわせて、敷地合体に向けて土地取引等を進める事業者やNPO等の組織の発展が求められる。自治体政策の出番であろう。
集落は親子同居を大切にする
集落地域では、親子三世代の同居を維持することが重要である。これにより、老後の暮らしの不安に対処できることが、集落居住の良さといえる。もちろん、その前提として農業等の持続的発展が必要であるが、その方策については専門外であり別の方に譲りたい。
さて、親子同居に関した政策課題としては、同居世帯に対する在宅福祉サービスの充実がある。ショートステイや在宅介護のサービスが少し入るだけで、同居する子世帯の負担は大きく軽減されるからである。
誤解を恐れずに言えば、「同居世帯に福祉サービスを、単身世帯にサービスカットを」という方針転換が求められる時期にきている。財政が逼迫する中で、高齢者一人あたりの福祉負担を軽くすることが否応ない現実となるからである。
実は、近年、老後の非親族世帯が急増している。その多くは、老後の茶飲み同居と呼ばれる男女の同居とみられる。これは、一人暮らしを避け、老後の安心を確保するための知恵の一つである。
さらに、空き家を活用した複数高齢者によるグループリビングもみられる。これらは、集まって住むことで、老後の安心を確保しようとする動きである。
財政の縮小時代には、「安上がりな福祉」を求めざるを得ない。そのヒントが、昔の集落の助け合いの暮らし方にあり、そこに福祉サービスが少し入り込むことで、助け合いが重荷ではなく楽しさに代わるのである。
以上、多極型コンパクトシティに向け4つの居住地のあり方を述べた。その4つの位置づけを図示したのが、下図である。参考にして頂ければと思う。
これからの居住地像
空き家活用によるまちづくり
さて、以上で述べた政策は、制度の変革を求める課題が多く、すぐに取り組むことが難しいものが多い。その中で、早急に取り組むことが期待される政策として、空き家活用の推進がある。
最近、全国の自治体で「空き家条例」が制定されている。その目的は、老朽化して地域の迷惑となっている空き家の対策であり、行政による清掃や取り壊しの代執行を定めることが多い。
そして、次に期待される条例は、空き家の有効活用のための条例である。うまく空き家を活用できれば、中心市街地の人口維持や、さらに田園地域での週末居住という新しいライフスタイルの定着を促すことができるはずである。
(1)中心市街地における空き家活用の推進
中心市街地での空き家活用は、中心市街地の空洞化を避けるための現実的な政策である。具体的には、空き家を高齢者のグループホームにしたり、デイサービスの場にしたりする試みがある。また、子どもの居場所として活用する例もある。さらに、大都市周辺であれば、若者のシェアハウスとして利用する例も多い。
一方、今後期待される活用策として、空き家を公共住宅の代替として利用する方法がある。今日、新規の公営住宅を建設することは困難である。そこで、空き家を活用するわけである。中心市街地の空き家を活用すれば、空き家対策、人口対策、居住福祉対策と一石三鳥の政策になるはずである。
(2)田園住宅と街なかマンションの組合せ
一方の田園地域では、そもそも空き家を活用する需要が乏しい。そこで、週末別荘や二地域居住の需要を新しく喚起することが課題になる。
日本では別荘というと、東京と軽井沢のように気候が異なる遠隔地の関係をイメージする。しかし、車で30分〜1時間程度の距離にある中心市街地と田園地域という関係も有力である。そうすれば、月に数回以上、週末等にリフレッシュで過ごす新しい別荘スタイルが描ける。これにより、人口減少時代においても、田園や集落地域の活性化をはかるのである。
もし、別荘の維持管理が大変ならば、数世帯で民家をシェアしたり、会員制の利用法を工夫したりすることも有力である。このような工夫によって、街なかマンションと田園民家を利用する新しいライフスタイルが定着すれば、人口減少社会を暗い未来ではなく、明るい多極型コンパクトシティの未来として描くことができるのではないだろうか。
空き家活用条例の制定は議会の出番
ところで、空き家活用を推進するためには、次の二つの条件が必要である。
一つは、信用できる仲介組織の存在である。空き家所有者からみると、そこで育ち愛着ある家の場合が多く、簡単には貸せない。そこで仲介する組織が重要になる。自治体が関与する第三セクター等が有力であり、すでに多く自治体で空き家バンクを運用している。今後は、紹介はもとより、新しい利用方法の提案やトラブルへの対処などのフォローが期待される。
もう一つの条件は、空き家をグループホームやシェアハウスなどに利用する場合の法規制の緩和である。
国土交通省住宅局は、2013年9月に事業者が運営するシェアハウス(グループホームを含む)に対して、建築基準法上は寄宿舎として扱うという技術的助言を公表した。その目的は、当時問題となっていた脱法ハウス対策であったが、シェアハウスにも規制が及ぶという副作用を生んだ。
実は、シェアハウスなどの活用法は、建築基準法上の用途として明文規定はなく、それまではグレーであった。そこで、寄宿舎であることを明確にしたのである。この措置は、劣悪な脱法ハウスを排除するためには有効であったが、しかし健全なシェアハウスやグループホームも対象に含むことになり、法規制は厳しくなり、空き家の活用に多額の改造費用を必要とするようになった。
技術的助言であるため最終判断は自治体に委ねられている。しかし、その影響は大きく、事実上、空き家活用によるグループホームやシェアハウスの新規開設は停滞することになった。
この問題に対して、国は、小面積の寄宿舎について規制緩和をする方針を公表しており、一定の改善がはかられる予定である(追記:2014年8月に緩和実施。2014年4月に東京都も緩和)。
しかし、筆者は、根本的には小面積の空き家活用にいちいち行政が口を出す必要はなく、民間の自己責任のもとに創意工夫していくことが望ましいと考えている。そもそも、空き家活用では、従来とは異なる多様な使い方が登場する。会員制の民家活用も、厳密に考えればホテルや民宿にあたるかもしれない。しかし、そのようなことに行政が関与するのは、大きな政府を求めすぎではないだろうか。
小面積の空き家活用では、その安全確保の責任は、事業者や居住者本人にあることを明確にすれば十分であると考えている(追記:マンションの民泊問題は管理組合でルールを定めるという別の課題がある)。
そこで、空き家活用条例を制定することを提案したい。具体的には、一定面積以下(例えば120〜200平米以下)の空き家活用を対象として火災安全性等の基準を定め、それを実現する義務は事業者と使用者にあることを明記した上で、建築基準法上は「住宅」と扱い、確認申請の手続きを不要とするのである。
なお、この程度のことは、建築指導担当者の判断でできると思われるかもしれないが、そうではない。万一、事故が発生したときには建築指導担当者の責任が追及されるからである。そのリスクは、政治(条例等)がとることが不可欠であり、条例または首長決裁の通知が必要なのである。
なお、同様な措置は、空き家のグループホーム活用を想定して、福島県、鳥取県、愛知県などで試みられている。
空き家活用条例には、建築基準関係の他にも、空き家調査への協力義務、活用に対する支援措置、等が盛り込まれるであろう。
おわりに
多極型コンパクトシティの実現には、政治的な困難が伴う。しかも、現在の多くの地方都市の現状は「猶予地域」に占められており、規制強化の内容を定められるほどの危機感はない。
そのため、現段階で自治体ができることは、多額の投資を行わない活性化策であり、その代表が「空き家活用」である。
昨今、全国で空き家条例の制定が続いているが、多くの自治体に本当に必要なものは、「空き家活用条例」ではないだろうか。まずは、それに着手することが人口減少時代のまちづくりを成功させる第一歩である。
参考文献(略)
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