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2015.05.13 都市における空き家問題の現状と課題
(掲載にあたって) 1.はじめに−全国的に空き家が増加 空き家の増加が問題になっている。住宅・土地統計調査(2008年)によると全国で757万戸(全住宅数の13.1%)が空き家である。この調査は5年ごとに行われるため、直前の2003年と比べると、5年間で約100万戸増えていることになる。 ところで、この調査は1/10〜1/20の抽出調査であり、空き家の判断も目視からである。このため、経年変化のような相対的傾向は正確とみられるが、絶対戸数については多少の誤差がある。 このように空き家の戸数には多少の誤差があるが、いずれにしても、空き家が経年的に増加していることは間違いがない。 2.人口が減っても住宅は増え続けている 空き家が増加する背景には、我が国の人口減少時代の到来があるが、事情はもう少し複雑である。 まず、住宅利用に影響するのは、人口ではなく世帯数である。周知のように単身化の進展により、人口が減っているにもかかわらず世帯数は増えている地域が多い。ちなみに、世帯数が減少に転じるのは、全国では2015年頃、東京都では2020年以降と予測されている。つまり、現時点では、まだ世帯数は増え続けている。その中で空き家が増えているのは、世帯数の増加以上に新築住宅が建設されていることを示す。 さらに、世帯数そのものが減っている地域でも、住宅の数は増え続けている。なぜ、このようなミスマッチが生じるのだろうか。その理由として、@空き家が活用も取り壊しもされずにそのまま保持されること、A都心回帰に代表されるように人々の立地選好が強まり好立地での新規供給が多いこと、Bその逆に停滞地域で中古流通が進まないため空き家が増えること、などがあげられる。 なお,@について補足すれば,局地的には,空き家が取り壊されている。その場所は中心市街地である。そこでは駐車場収入を得るために取り壊すことが経済合理性をもつ。しかし,それ以外の場所では,住宅を取り壊すと,除却費がかかるとともに土地の固定資産税が6倍になる(小規模宅地の軽減がなくなる)。その一方で,収入を得る方法はない。空き家のままとしておくことが,所有者の心情としても,経済合理性からも最善の選択になっている。 3.空き家の課題は「放置」と「活用」 さて、増加する空き家についての課題は二つある。一つは、老朽化した危険家屋が「放置」されることによる地域環境の悪化である。もう一つは、空き家を有効に「活用」する方策を探ることである。 前者の「放置」に対処するために、全国の各自治体で「空き家条例」が制定されている。これは、自治体が先頭にたって、放置家屋に対して勧告、命令、罰則などを行うものである。2013年1月1日時点で99自治体(判明分のみ)が条例を定めており(樋野2013.1)、その中で77が所有者に対する命令を定め、さらに36の自治体が代執行を可能としている。代執行とは、放置家屋を自治体が取り壊し(あるいは清掃や剪定し)、その費用を所有者に請求するというものである。もちろん空き家といえども個人の財産であり、代執行は容易ではない。しかし、それを条例で定める必要が生じるほど問題が深刻化しているということである。 一方、東京23区では、空き家に特化した条例は足立区と大田区等で、環境美化条例で対応している杉並区を含めても数区にとどまる。大都市では、所有者に活用意思があれば利用の需要はあるため、取り壊すよりは「活用」の方策を探ることが課題になる。 空き家の活用について、その可能性を整理したものが表1である。この表から分かるように,活用例は、ルームシェア、貧困ビジネス、福祉目的の利用であり、その他は,先進例はあるものの数は少ない。現時点では、新しい活用方策を工夫していくと同時に,地域に迷惑をかけないように空き家を維持管理するビジネスの発展が求められている。 4.大都市では既存不適格建築が多い−豊島区の調査から 豊島区が行った空き家実態調査(2012.1実施)から、大都市での実態をみてみよう。一戸建住宅が多い地域を取り上げて悉皆調査を行ったものである。その結果によると、空き家の72.8%が、4メートル未満の道に接していた。つまり、既存不適格建築物(法改正前の建物で、改正により不適格になっても現状のままで可とする建物。道路4mは昭和25年に定められ細街路は道路中心線から2mセットバックすれば建築可とされた。しかし過渡的に2m未満のセットバックで可とした自治体が多い)である。逆に言えば、現行法の4メートル以上の接道条件を満たす空き家は、空棟率1.6%×(1-0.728)となり、全棟数の0.43%にすぎない。 さらに、空き家所有者にアンケート調査を実施した結果によると、空き家ではなく利用中との回答が約8割あり、未利用との回答は2割弱であった。用途は、自宅利用・物置・一時的寝泊まり・二住宅利用等であった。この比率から推定すると、接道条件を満たし、かつ未利用空き家は、全住宅の0.08%程度にすぎない。さらに、そのほとんどが老朽家屋であり、建物の耐震性が高い優良空き家となると、事実上、皆無に等しくなる。 なお、この調査では、区のモデル事業の対象を検討するため、既存不適格建築物や耐震性に劣る住宅を利用不可と判断したが、現実には、このような住宅がシェアハウスや貧困ビジネスの住宅として使われている点は留意したい。 このように、大都市での一戸建住宅の空き家は、接道不良、老朽化、そして権利関係が未整理などの活用阻害因をもつ。だからこそ空き家になるわけである。このため、公共が関与して空き家活用を進めるためには、後述する建築基準法上の対応が必須になる。 5.言葉を使い分ける−空き家・空き室・空き部屋 空き家活用の方法を検討するために、様々な空き家のタイプを整理することが有効である。そこで、以下の3つの言葉を使い分けることにしたい。 @空き家:一戸建住宅が空いていること。但し、この言葉は、@〜Bを含めた総称としても用いることがある。 A空き室:共同住宅の1室が空いていること。例えば、借り手がみつからないため賃貸アパートが空いている場合が典型である。 B空き部屋:住宅内に使わない部屋があること。例えば、広い家に高齢者が一人暮らししているため、使わない部屋がある場合が典型である。前述したように、東京都区部で適用に活用可能な一戸建住宅はほとんどないが、これに対して、高齢者が一人暮らしする一戸建住宅は多い。空き部屋の活用がこれからの主題になると考えられる。 6.都市部における賃貸アパートの空き室 以下、空き家の種類別に課題を整理してみよう。まず、「賃貸用空き家」をとりあげる。 賃貸経営では、入退去に伴う清掃などによって、順調な賃貸経営でも5%弱(1年当たり2〜3週間ほど)の空き室は発生する。では、「賃貸用空き家」の約400万戸を空室率に換算すると何%になるのだろうか。借家数(居住者あり借家と賃貸用空き家の合計約2190万戸)を100%とすると、空室率は18.8%になる。つまり、5%をはるかに越えており、供給過剰状態にあることが分かる。 空き室増加の背景にあるのが若者単身者の減少である。結婚しない若者の増加が指摘されているが、若者の人口減少を受けて全国の単独世帯は減少している(2005年から2010年で20〜34歳の単独世帯は30万世帯減)。一方、東京都では2000年以降横ばいである。これまでは右肩上がりが続き、アパート経営といえばワンルームが定番であったが、それが十年ほど前から転機を迎えたわけである。なお、若者未婚人口の大幅減少ほどには単独世帯は減っていないが、これは、アパートが安く借りられるようになるため、親元から独立して独り暮らしをする者が増えるためと考えられる。 一方、一貫して増え続けているのは高齢単身者である。ただし、高齢単身者の多くは持家住まいであり、借家世帯も古いアパートや公的住宅に住んでいるためワンルーム需要には結びつかない。さらに、最近のシェア居住の増加も賃貸アパート経営に逆風をもたらす。図1のように、若者単身者のルームシェアは急増しており、これが単独世帯の減少の一因になっている。このようなシェア居住は、もっぱら2DK以上の広い空き家を活用している。
7.空き室をどう活用するか このような空き室の増加が、大家の経営への打撃にとどまっている間は、経営の見通しの甘さを指摘すれば済むが、大家が建物管理の意欲を失ったり、苦肉の策として得体の知れない住民に貸したりすると、地域にとっての問題になる。 実際、古い老朽アパートが、貧困ビジネスとして活用されている状況がある。住宅分野の貧困ビジネスとは、生活保護費の住宅扶助費に狙いを定めて利益を上げるビジネスである。その中には、安心な居場所を提供している「よい貧困ビジネス」もあるが、逆に、生活保護者を囲い込んで収奪する反社会的な経営も少なくない。さらに、不法滞在の外国人などに提供される例もある。このような状況を踏まえて、空き室の適切な管理または活用が課題となっている。 @ 良質アパートの活用 東京都では、賃貸用空き家の約83%は老朽・破損がない良質アパートである。そこで、広めの住宅については、ルームシェアに提供したり、あるいは公共アパートの代替として活用したりする方法がある。後者は、財政難を背景として公営住宅の供給が抑制される中で、その代替として活用するものである。 A 老朽アパートの活用 大都市では建替え可能であれば更新が進むため、老朽化するアパートの多くは、4メートル未満の道に面する建築とみられる。このため、建替えができず、また売却もできないことが多い。これが、前述した貧困ビジネスの舞台になるわけである。 B 良質だが立地が悪いアパート 対応が難しいのが、建物は良質だが、立地が不便なために空き家になっているアパートである。しばらくは、1世帯2住宅等の利用をとり込んで、豊かな暮らしを安く実現できる場としての良さをPRしつつ、将来的には、住宅地としての撤退を検討することが必要になろう。 8.持家の空き家をどう活用するか 次に、一戸建住宅等が空き家になる「その他空き家」をみてみよう。地方では、相続されたものの住み手がいない空き家が急増しており、空き家条例制定の背景になっている。もちろん、活用策も模索されており、田舎暮らしや二地域居住をPRする空き家バンクの試み等が進められている。とはいえ、仏壇が置かれているケース(いわば愛着型空き家)が多く、親戚の眼もあって活用は容易ではない。その中で、高齢者の居場所やデイサービス等の福祉的利用であれば親戚の納得も得やすいようである。 一方、都市部では、前述したように空き家数は少ないが、放置されると地域に悪影響を及ぼすため、早期に有効利用を図ることが求められる。 しかし、都市部では、空き家の一戸建ては、未接道のため老朽化が進んでいたり、長期入院後の帰る家として確保したりと、もともと利用が容易ではないケースが多い。現在、土地の固定資産税が小規模宅地軽減で1/6になり、空き家でも適用されることが一般的だが、これが不適用になれば活用が進む。ただし、人々の実家への愛着を否定するという副作用もあり、今後の課題となろう。 9.空き部屋の活用に大きな可能性がある さて、これから注目されるのが「空き部屋」の活用である。持家の高齢単身化とともに空き部屋が増えているからである。一昔前であれば、間借りに提供されたが、今日、一般的な間借りに需要があると考えにくい。そこで、新しい間借りの工夫が求められる。その方法として、地域の居場所づくりとホームシェアが注目される。 @地域の居場所づくり 空き部屋を地域の子育てサロン、高齢者の居場所、ギャラリー、カフェ等に利用するものである。自治体が関与する好例として、東京都世田谷区の「地域共生のいえ」がある。これは、空き部屋等の利用を財団法人世田谷トラストまちづくりが仲介・支援する事業である。このような活用は所有者側にとっても意義があり、一人暮らしのお年寄りの生き甲斐になった例も報告されている。 Aホームシェア もう一つの利用方法が、ホームシェアと呼ばれるものである。これは、お年寄りの持ち家に若者が同居するもので、若者は安い家賃、お年寄りはイザという時の安心を求める。イザの安心とは、例えば、病気で倒れた時に病院に電話するなどの助けのことである。 10.空き家活用と法制度−現行法では適法活用は困難− ところで、空き家を活用して福祉ハウス、シェアハウス、グループホームなどを運営する場合、建築基準法の課題があることが指摘されている。というのは、これらの活用法は、建築基準法上の用途が定まっておらず、住宅の類似用途なのか、特殊建築物(寄宿舎や福祉施設等)なのかの判断が曖昧になるからである。 建築基準法では、大規模な模様替えか、または用途変更がなされる場合は、既存不適格建築物の適用はなくなり、原則として、現代の建築基準に適合することが求められる。つまり、用途変更とみなされる場合は、例えば接道義務(幅4m以上の道に接道するか、または道路中心線から2m以上建物を離す)を満たさない古い建物は活用できないことになる。さらに、用途変更に該当すると、適用される建築基準が格段に厳しくなる。このため、適法となる空き家活用は難しい(表2)。 現実には、事業者自らが住宅の類似用途とみなし、建築確認申請を出すことなく空き家活用を進めている例が多い。しかし、これは望ましい状態ではなく、また行政が関与したり、公的支援の対象としたりする場合は、建築基準を明確にした上で「適法」とすることが不可欠になる。 11.住宅と施設の中間的用途を定めることで解決 このような問題を解決するためには、住宅と特殊建築物の間の「中間的用途」を新しく定義することが有効である。 具体的には、「特定住宅」という用途を定めて、2方向避難の確保(1方向は窓からの避難で可)と、住宅用火災報知器(連動型)の設置、耐震性の確保を義務づけるが、それ以外の基準は、一般住宅と同等とすることを提案したい。また、住宅と特定住宅の間は「類似用途」とみなして既存不適格建築物の扱いを認める。特定住宅は、2階建以下、床面積200u以下の一般住宅を用いた用途とし、身障者等の避難困難者が単独で2階に居住することのない用途に限定するという提案である。 12.自治体による空き家活用の取り組み 空き家を活用するためには、所有者の不安解消が大きな比重を占めており、初期段階では自治体が介在することが、信用確保のために有効である。 地方では、前述した空き家バンクに行政が関わる例がみられる。一方、大都市では、民間によりシェアハアスや貧困ビジネスが展開しているが、その中で、グループホーム、福祉施設、ホームシェア、地域の居場所づくり、公的住宅としての活用等において行政の関与が期待されている。 具体例として、前述した世田谷区の地域共生のいえづくり支援事業があり、また、東京都の豊島区は「居住支援協議会」を活用して、空き家活用モデル事業に着手した。居住支援協議会とは、自治体、事業者、専門家等が集まり、住宅困窮者の住まいを支援することを目的として各自治体に設立されるものである(住宅セーフティネット法に規定)。 協議会の主要活動として、高齢者や障害者等が民間賃貸住宅に入居しやすいように支援すること(紹介や保証代行等)があるが、それに加えて、豊島区では、空き家活用に取り組んでいる。具体的には、活用の担い手となるNPO等を募集し、現在、母子家庭のシェアハウス、グループホーム、コレクティブハウスの3グループが選定され、実現を目指して活動している。 13.空き家活用と公営住宅の再編の連携 さて、空き家活用により、安い費用で住まいを提供できる余地は大きく、今後は、公営住宅の代替としての役割が期待できる。例えば、4LDKで家賃16万円の空き家があれば、4人でシェアすれば一人当たり4万円である。もちろん、空き家所有者への対応やシェア暮らしをサポートするNPO等の組織がないとうまくいかないため、その経費が必要になるが、十分に生活保護の住宅扶助費に収まるだろう。 このような空き家活用による公的低家賃住宅(セーフティネット住宅)が定着すれば、いずれ公営住宅との関係の整理が必要になる。その場合、現在の公営住宅は,子育て支援住宅として中所得者を含めて所得ミックスを進め、その結果生じる家賃の収入増を空き家活用の支援に振り向けていく政策が考えられる。これにより、財政負担増を抑えつつ、セーフティネット住宅を充実できる可能性がある(詳細は文献3参照)。 14.自治体による空家「活用」条例の必要性 空き家の増加をプラスにとらえるならば、安い費用で豊かな住生活を実現できることを意味する。ところが、これまでみてきたように、都市部の空き家の多くは未接道等の問題から適法に活用することは困難である。このことは、民間が自主的に活用する場合は黙認されるケースがあるとしても、自治体が関わる場合は決定的な阻害因となる。 この問題を解決するためには建築基準法の改正も一案であるが、しかし、自治体が条例を制定して対処する方法にも可能性がある。つまり、住宅を転用した小規模なシェアハウスやグループホーム等は、条例によって建築基準法上は「住宅」とみなした上で、自治体独自の基準を適用するのである。この方法は、各自治体の事情を踏まえて柔軟に基準を定められるとともに、住宅扱いとするため確認申請を行政が審査する必要がなく、これら基準を守る事業者・利用者の責任を明確にできるという良さがある。 いずれにしても、空き家問題について、空き家条例による「放置」への対応に加えて、建築基準の工夫による「活用」への対応が重要である。これにより、都市部における空き家活用の世界は大きく広がるのである。 参考文献 |