HIDEKI'S COLUMN 2015


2015.03.11

マンション管理センター通信2014年3月号より

東日本大震災から3年を経て

−マンションの建替えから解消へ−

(掲載にあたって)

 東日本大震災が発生した時(2011年3月11日)は、4月総会で日本マンション学会の会長に就任する直前でした。その後、あわただしく会長の指名を受けましたが、それからの2年間は、被災マンションの復興に関する法制度改革に奔走する日々でした。本原稿は、震災3年後に発表したものですが、そこでの未解決課題は現在も引き継がれています。今後も大震災の発生が懸念される中で、仙台における経験を生かすことが大切です。一昨年に掲載した「震災復興におけるマンションと一戸建の平等性の検証」と合わせてお読みください。


はじめに−3年前の記憶−

 3月11日の光景は、昨日のことのように思い出されます。
 千葉大学の研究室で地震に遭遇し、交通マヒで帰宅できずに一夜を明かしたこと。研究室で視聴したテレビの津波被害の映像に驚愕したこと。自宅マンションがあるつくば市も断水や停電で生活困難に陥ったこと。そして、管理組合の適切な対応によりマンション暮らしの安心感に妻が感謝したこと、等々。

 その後、3月末に開かれたマンション学会の役員会では、仙台や浦安のマンションで相当の被害がでているとの報告があり、早急に実態把握を進めることにしました。
 4月末には東北管理組合連合会等の案内で仙台の被災マンションを訪れました。事前に建物の倒壊はないと聞いていたのですが、現地を見て認識を改めました。確かに、建物構造体の被害は小さいものの、非構造壁や設備が損傷して居住困難なマンションが多くありました。
 もちろん、明るい話題もありました。被災後の不安な夜を集会室に集まって過ごし、マンションの心強さを実感したという声や、海に近いマンションが津波の避難場所として地域に貢献したという話題です。
 一方、液状化による被害を受けた浦安では、うねった地盤、上下水道管等の破断、そして建物と地盤に生じた大きな段差を目の当たりにしました。

 阪神淡路大震災とは異なり、建物の倒壊や火災はほとんどありませんでしたが、そこでも深刻な生活困難が生じていることに驚き、そして震災被害とは何かの認識を見直すことの必要を痛感しました。

緊急提言の発表とその後

 実態調査を踏まえて、マンション学会は緊急提言をまとめ、6月11日に発表しました。その柱は二つです。一つは、国の震災関連支援制度が、おもに一戸建住宅を想定しておりマンションの実態に即していないことの見直しです。もう一つは、マンションの区分所有関係の「解消」制度の創設です。

 これら提言のうちいくつかは、関係者の努力により早期に実現しました。一つは、応急修理制度が共用部分に適用できるようになったこと、もう一つは、浦安市が液状化被害に補助を実施したことです。しかも浦安市は、個人ではなく管理組合を補助の対象とするという画期的な判断を行いました。

 残る課題については、具体的な解決策にまで踏み込んで提言することとし、1年ほどかけて「被災マンションの復旧・復興に向けた政策提言」をまとめました。平成24年7月に公表し、あわせて関係省庁を訪問して対応を依頼した次第です。 >→マンション学会の政策提言

 現在、マンション学会の提言公表から1年半ほど経過しました。提言の一つ、地震保険については、財務省等が検討しましたが見直しには至っていないとのことです。一方、最大の課題であった「解消制度の創設」については大きく進展しました。

建替えから解消への契機

 阪神淡路大震災では、被災マンションの建替えが問題となり、関連の法整備が進みました。しかし、地価が低い地方都市では、建替え時の増床によって区分所有者の費用負担を軽減することはできず、建替えに多数が合意することは困難です。そこで求められたのが、多数決による建物の解体及び敷地の売却(区分所有関係の解消)です。

 ご存じの方も多いと思いますが、平成25年6月に改正被災マンション法が施行され、多数決による解消制度が創設されました。これを受けて、仙台の被災マンションでは、敷地売却に取り組む例が出ています。

 このような動きと並行して、被災マンションだけではなく、一般の老朽マンションにも解消制度が必要という認識が強まりました。例えば、大都市でも法定容積率一杯に建っている場合は、建替えが困難と予想されるからです。このような場合は、できる限り長期に建物を利用した上で、最後は「解消」という選択肢を整える必要があります。

 現在、国は、耐震性に劣るマンションに限定して解消制度を導入すべく検討中です。いずれ、一般の老朽マンションへの適用も課題になるでしょう。 東日本大震災から3年後の現在、「建替えから解消へ」という動きが現在化しているといえます。

リーダー候補が懇親する機会の大切さ

 さて、東日本大震災を踏まえて防災に対する意識が高まりました。しかし、3年を経過して、次第に関心が薄れていることも事実です。
 今回の教訓で重要なことは、イザという時のリーダー人材がいることだと思います。私は、そのために各マンションで防災危機対策委員会を設置し、歴代の理事長その他をメンバーにすることを推奨しています。その真の目的は、リーダー候補どうしの意思疎通です。普段から意思疎通があれば、イザという時に力を発揮します。そのためには飲み会も歓迎してよいのではないでしょうか。

 「災害時にコミュニティが大切だ」という言葉が意味することは何でしょうか。一つは、リーダーを中心に迅速に意思決定ができることです。そのリーダー候補が時々集まって懇親を深めれば、危機対応は円滑に進むはずです。

防災をコミュニティ形成に生かす

 コミュニティに込められたもう一つの意味は、マンション住民の顔が互いに分かることです。誰が住んでいるか分からないのでは災害時の救助もできないからです。これに関して、東京都豊島区はマンション管理推進条例を制定し、「居住者名簿の作成」を義務づけました。昨今、個人情報保護の意識が高まる中で、居住者名簿の収集は難しくなっています。そこで条例で義務化されていれば、名簿集めが容易になると期待されます。

 東日本大震災から3年を経て感じることは、「災害に備える」という言葉が、様々な場面で説得力をもつことです。仮に条例がなくても、防災上の意義を説明すれば、名簿集めに多くの方が納得して下さるのではないでしょうか。

 マンションで互いに顔が分かることは、災害時への備えだけではなく、近隣トラブルの未然防止や犯罪防止にも役立ちます(マンション学会の「コミュニティの意義に関する多数意見」をご覧下さい)。大いに「災害に備える」という目的を活用して、マンションにおけるコミュニティ形成をはかりたいものです。

千葉大学工学部都市環境システム学科小林秀樹研究室
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