HIDEKI'S COLUMN 2015


2015.02.01

建築雑誌2014年1月号より

新しい住まい方と法規制

−シェアハウスの建築用途をめぐって−

(掲載にあたって)

 シェアハウスの建築規制については、2014年8月に建築基準法の取り扱いが一部緩和され、東京都の安全条例における窓先空地の緩和も予定されています。しかし、空き家には既存不適格建築物が多く、今回の改正ではこの問題には対応が難しいのが現状です。本来、暮らし方に関わる建築用途は、地域の実情に合わせて自治体が判断することが望ましいといえます。

 時代により変化する建築の「用途判断」は根本的な問題です。発表から1年後のHP掲載ですが、この原稿の重要性は変わらないと考えています。


はじめに−シェアハウスは寮・寄宿舎か−

 建物の用途は、時代や社会状況で変化し、新しい用途が次々と登場する。建築のいろいろな使い方の可能性を広げたい...ということが狙いであれば気楽に使い方を提案できる。筆者も2007年に団地の空き家を活用したシェアハウス事業を展開しマスコミの注目を集めた(写真)。

 しかし、これに法制度が絡むと、気楽にというわけにはいかない。例えば、最近、脱法ハウスが問題となった。その用途をめぐって、2013年9月に国は「寮・寄宿舎」として扱うように技術的助言を通知した。問題となった脱法ハウスは、従来のシェアハウスとは一線を画するタコ部屋であり、脱法カプセルルームとでも呼ぶべき代物だ。規制は当然だろう。そこで、寮・寄宿舎とみなせば、主要な間仕切り壁は準耐火構造とし、階段勾配は緩く、さらに東京都は条例で窓先空地を求める。格段に規制は厳しくなり、さらに既存住宅の活用では、住宅からの用途転用にあたるため、既存不適格建築物の利用は困難になる。

 しかし、健全なシェアハウスと脱法カプセルルームの区別はどこにあるのだろうか。それを明確にしないと適切な法規制はできない。今回の通知では、カプセルルームは当然としても、「事業者が運営するシェアハウス」を含めて、すべて寮・寄宿舎とみなすこととしている。

 筆者が知る実態を踏まえると、古い空き家を活用したシェアハウスは、ほぼ100%が違法になると推定される。技術的助言は参考意見で強制力はないとはいえ、今後の空き家活用への影響が懸念される事態となっている。

 筆者は、この問題を解決するために、住宅と特殊建築物の中間に、新たに「特定住宅」という用途を設けることを提唱している。以下、その意図を述べたい。

団地の空き家を利用したシェアハウス(小林研究室)

建物の用途はパンドラの箱

 様々な法制度は、建物の用途に従って基準を定めている。建築基準法や消防法はもちろんのこと、税制も同様である。例えば、住宅と認められると200平米以下の土地の固定資産税が6分の1と大幅に安くなる。

 このように用途は極めて重要であるにもかかわらず、これに関する学術的議論は低調であり、もっぱら建築行政会議等での実務的検討に委ねられている。しかし、行政会議の中心メンバーである建築主事は、法規制を運用する側であり、やむをえず用途の判断を求められれば「厳しい方向、安全側」で判断せざるを得ない。もし火災事故でもあったら、その担当者の責任が問われるからである。

 実社会では、既成概念にあてはまらない用途が次々と登場する。シェアハウス、マンスリーマンション、グループホーム、トレーラーハウス、等々。これらは、果たして住宅なのだろうか、それとも別の用途なのだろうか。その判断は容易ではない。建物用途の判断は、できれば開けたくないパンドラの箱なのである。

 本来は、法制度の運用者だけに判断を委ねるのではなく、重要な案件は、法律(政令や条例)において、政治が責任をとって用途を適切に変更しなければならない。しかし、それは煩雑な検討になる。その結果、もし新しい用途に柔軟に対応することが必要ならば、行政が「知らないうち」に勝手に事業者がやったというのが現実的な対応になる。パンドラの箱を誰も開けたくはないからである。

空き家活用は政策課題−合法的に推進したい

 ところで、今日、空き家が増加しており、大都市でも1割を超える。これをうまく活用すれば、住まいに困っている人々に安く住宅が提供できる。さらに、広い家に高齢者が一人暮らししている例も多い。その空き部屋に若者が下宿すれば、さらに安く住まいを提供できるはずだ。

 前述した脱法カプセルルームは、安い家賃を実現する「必要悪」という意見がある。しかし、空き家活用のシェアハウス等をうまく進めれば、同等の家賃で健全な住まいを提供できる。具体例としては、自治体が居住支援協議会を設立して、空き家・空き部屋の活用を進める方法がある(東京豊島区等)。しかし、自治体が関わる場合は、建築関連法規について「知らないうち」は通らない。合法的に空き家活用を進めることが不可欠になる。

 今回の通知が強い懸念を引き起こすのは、空き家活用によるシェアハウス、グループホームなどの推進が、ほぼ困難になるからである。しかも、行政が認知する優良業者を撤退に追い込み、法をすり抜ける悪徳業者をはびこらせるという逆効果を招く恐れがある。

では、どうすればよいのか−中間的用途を定めて自治体が運用する

 この問題を解決するにはどうしたらよいのだろうか。現在のように、住宅と特殊建築物の用途しかなければ、シェアハウス等をどちらかに無理に入れるならば、特殊建築物つまり寮・寄宿舎や共同住宅とせざるをえない。しかし、数人程度のシェアハウスまで寮・寄宿舎とみなすのは、明らかに行き過ぎだろう。

 そこで、両者の中間に新しく「特定住宅」という用途を導入することを提案したい。これは、少人数のシェアハウスやグループホーム、及び住宅に付属するデイサービスなどの用途を想定したものである。

 具体的には、延べ床面積200平米以下の一般住宅の転用を想定し、各居室内には住宅設備(台所、風呂シャワー、トイレ)がなく、居住人数が6〜7人以下を「特定住宅」とみなすものである。また、デイサービス等がある場合は、その部分の床面積が100平米以下とする。なお、6〜7人という数字は、三世代家族を想定すれば6〜7人程度までならば疑似家族に近いという理由によるが、その検討は今後の課題である。居住人数が多い場合は、不特定多数性が強まることから、寮・寄宿舎と判断することが適切だと考えている。

 一方、規制の水準は、住宅と特殊建築物の中間程度とし、安全性を確保しつつ空き家活用等を適切に推進できる内容とする。具体的には、2方向避難の確保を重点とし、住宅用火災報知器の設置、各居室に採光上有効な窓の確保を定めるものである。また、脱法カプセルルームと区別するために、一人当たり床面積を概ね12u以上とする案も有力だろう。その他は、一般住宅と同等とする。なお、特定住宅は住宅の類似用途とみなし、既存不適格建築物の活用を一定程度は可能とすることを想定している。

 以上に加えて、移動困難者が住む場合(認知症高齢者のグループホーム等)は、別途、追加の基準(平屋とする等)を導入することが必要になろう。

用途概念はこれからの建築・不動産学の課題

 人々の住まい方は時代によって変化する。これに的確かつ柔軟に建築規制が対応するためには、住宅と特殊建築物の中間に新しい用途を定めることが有効である。そうすれば、軽微な改造で空き家活用が合法かつ適切となり、現在指摘されている問題の多くは解決するだろう。

 一方、建物用途に応じて規制するという考え方自体が古いという主張もある。それも傾聴に値する。既存ストックの活用が求められる時代を迎えて、研究と実践の両面から「建築の用途とは何か」という本質的課題に切り込むことが求められている。

(参考)

拙著「都市部の市街地における空き問題の現状と課題」都市問題、vol.104-4、pp.46−54、2013.4

リンクの文章も参考にしてください。<→シェアハウスは住宅か寄宿舎か

(追記)

1.自治体が特定住宅の同様な取り扱いをした例として、空き家活用型のグループホームを対象に建築基準法上は住宅として扱い、自治体が独自の基準を定める愛知県・福島県などの例がある。その判断を支持したい。

2.建築基準法は、建物の物的状態を対象としており「一人当たり床面積」「居住人数」のような暮らし方にかかわる規制がなじまない。しかし、特定住宅は建築基準法とは別の枠組みであり、自治体が条例で定めることで可能であると判断している。

千葉大学工学部都市環境システム学科小林秀樹研究室
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