HIDEKI'S COLUMN 2015

2015.04.10
市民と法2012年4月号より

不動産に関わる「創造的」司法書士像への期待


(掲載にあたって)
 司法書士に向けた雑誌の巻頭言として書かせていただいた原稿です。新しい住まい・街づくりを実現するにあたり、不動産登記に関する創造的な活動に触れたことが執筆の動機でした。発表から4年後の掲載ですが、今でも思いは変わりません。
 なお、建替え等円滑化法改正(2014年12月施行)により、耐震性に劣るマンションの解消において、抵当権を処理するための手続きが整備されました。この原稿で指摘した4番目の課題は解決されたわけで、法改正を担当された方々の努力に感謝する次第です。

はじめに

 筆者の専門は建築学であるが、マンションの不動産登記の奥深さについて、3つの経験を通して知ることになった。そこでは、未知の課題に対する「創造的」ともいえる司法書士の活躍や登記のあり方に接してきた。

3つの創造的なマンション登記の経験

 最初の経験は、一般定期借地権(借地借家法22条)と譲渡特約(同法23条)を同時に設定する「つくば方式」マンションと呼ぶ新方式を筆者らが開発した時であった。
 その登記に前例はなく、司法書士が法務局と相談して実務上の解決を導いた。また、売買予約による譲渡特約の登記が、住宅ローンの抵当権と抵触するため、登記順位について貴重な助言をいただいた。その時が、司法書士の創造的な活動に触れた最初であった。

 2回目は、マンション販売で注文設計が行われるようになったことを受け、間取り内装が決まっていない区画(スケルトン状態の区画)を登記する課題であった。
 これが必要になる理由は、内装が完成した住戸から住宅ローンの抵当権設定が必要になり、内装が未完成の区画についても同時に表示登記しなければならないからである。
 この場合、用途が未確定となり、法務省の判断が必要になる。約2年かけて法務省民事局と協議して得た結論は、「居宅(未内装)」という新しい用途名により登記可能とするものであった。

 以上の経験は、いずれも、不動産登記とローンの関係から生じている。実は、マンションの歴史を紐解くと、欧米では組合や法人が一棟を所有し、組合員や株主自身が住むという一種の持家化の形態がみられた。
 その後、マンションが登場して普及するが、その利点は、組合や法人を経由することなく、各戸別にローンが受けられ、各戸別に売買できることにあった。つまり、司法書士が担っている不動産登記とローン(抵当権)が、マンションという形態の鍵を握っているのである。

 3回目の経験は、人工地盤上にある住宅の登記という課題であった。坂出市に人工土地があり、その登記を調べた。なんと、空中に一戸建があるように登記されていた。昭和三十年代の産物だが、その登記でも所有権と抵当権の対象を明確にするという最低限の役割は果たしている。当時の担当者の苦労を想像してニヤリとした次第だ。

○マンションの解散と抵当権の処理

 そして、現在、4回目に直面している。それは、東日本大震災を踏まえて、区分所有関係の解消(解散)を多数決で可能にする制度の構築である。
 地方都市では、被災したマンションの建替えは、費用負担の問題から困難なことが多い。このため、建物を解体し敷地を売却して解散する選択が必要になる。その時に鍵を握るのが、抵当権の処理である。
 建替えの場合は、抵当権は、建替え後のマンションに付け替えられる。しかし、解散ではその手は使えない。このため、売却費用を一括して預託し、抵当権者に優先的に配分するような手続きが必要になるが、模索中である。今後、司法書士の活躍が必要になるテーマと考えている。

 マンションの登記に関わる法律検討と実務において、筆者は、司法書士の手堅さと同時に創造性に触れてきた。その活躍に期待する次第である。