HIDEKI'S COLUMN 2012


2012.11.23

マンション学40号(日本マンション学会) 2011.10より転載

一戸建住宅とマンションの復旧支援の平等性の検証

-東日本大震災における千葉県の液状化被害を通して-

小林秀樹 千葉大学教授

1.はじめに−千葉県で大規模な液状化が発生

 3月11日の三陸沖地震において、千葉県下は、我孫子市や印西市で震度6弱を観測した他、県北部を中心に震度5強の地域が広がった。さらに、その30 分後に起きた茨城県沖を震源とするM7を越える地震でも震度5強の揺れを観測した。これらによる建物被害は、古い建物を除いて軽微であったが、地盤の液状化が大規模に発生し、道路や上下水道等のライフラインの破断、家屋の傾き等の被害が生じたことは周知の通りである。図1は、液状化被害がみられた地域を示したものである(千葉県環境研究センター。毎日新聞2011.6.9)。液状化は、東京湾岸の埋立地(千葉市、習志野市、浦安市等)だけではなく、利根川流域においても大きな被害をもたらした。さらに、利根川流域の対岸にあたる茨城県の潮来市や霞ヶ浦周辺においても液状化が発生している。これら地域では、一戸建住宅を中心に大きな被害が生じており、家屋の沈下や傾きの発生が広範囲にみられた(写真1、2)。
 また、以上の地域は、1987 年に起きた千葉県東方沖地震で液状化した地域と一部が重なっており、液状化により地盤が締め固まることはなく、繰り返し発生することが確認された。一方、東北で大きな被害を出した津波については、九十九里沿岸に被害を与えており、とくに旭市において甚大な津波被害があった(写真3)。

2.中高層マンションの被害状況

 千葉県中東部(利根川流域や九十九里浜沿岸)では、一般の分譲マンションはあまり立地していないため、その被害は報告されていない。賃貸マンションで一部被害がみられた程度である。一方、浦安市から千葉市にかけての東京湾岸の埋立地では、液状化の発生により、一戸建住宅はもちろんのこと、中高層分譲マンションでも少なからず被害が発生している。とくに、敷地内の噴砂やライフラインの被害が大きかった。

(1)液状化による建物被害は軽微
 中高層マンションは、基礎杭が固い支持層まで達しているため、液状化によって建物の支持力が失われることはなかった。このため千葉県では、罹災証明における「半壊」以上のマンション被害は皆無で、「一部損壊」までにとどまっており、液状化に対するマンションの強さが確認された。
 なお、東京湾岸の埋立地では、基礎杭が20〜50mに達しており、地中にある基礎杭の損傷が懸念された。しかし、建物の傾きは確認されていないこと、及び基礎杭の損傷を引き起こしやすい地盤の側方流動(液状化した地盤が水平に動くこと)が、それほど生じていないとみられることから、基礎杭の損傷は一部にとどまると推定される。また、地震動による建物被害も軽微であり、一部マンションで、小さなヒビの発生、外装材の破損、エキスパンションジョイントの破損、エレベーター等の設備の破損がみられた程度である。ただし、家具の転倒は多く発生している。

(2)「抜け上がり」による段差の発生
 建物被害は軽微であったが、液状化により周辺地盤の沈下が生じ、その結果、建物が浮き上がったように見える現象(抜け上がり)が広範囲に発生している。例えば、浦安市のマンションでは、平均28.4cm、最大では約80cm の抜け上がりがみられた(図2参照)。
 ただし、隣接するマンションでも被害程度は異なり、軽い被害の例では、地盤改良の効果の影響があると推定されている。抜け上がりが生じると、建物内への通行に支障が生じることはもちろんだが、より深刻なことは、これによりライフラインの破断が生じることである。道路の段差、上下水道管の切断、雨水排水管の切断が各所で発生し、一部ではガス管も被害を受けた(写真4、5)。
 これら被害を受けた配管は、露出による仮復旧が行われ、震災後1〜2週間で使用が可能となっている(写真6)。しかし、本復旧については、本原稿を書いている時点(震災後4ケ月時点)では検討中のマンションがほとんどであった。

(3)マンションの敷地内の被害
 マンションの敷地内については、大量の憤砂、通路の隆起やうねり、門や外構の破損や傾きが生じている。また、下水管については、下水を流すために適切な勾配の確保が必要だが、所々で勾配不良が生じて下水の使用が制限されているマンションが残っている。


3.タウンハウスの被害状況

 千葉県下では、昭和50 年代を中心に低層接地型のタウンハウスが数多く建設された。これらは、基礎杭を支持基盤まで打設することはしない場合が多いため、一戸建住宅と同じく、液状化によって建物の傾きが生じているものがある。とりわけ、木造タウンハウスにおいて、建物が傾く大きな被害がみられた。
 なお、同じタウンハウスでもRC造の団地については、建物被害が軽微であった。地盤改良を実行したことや、1棟の建物が大きく重心が均一のため不同沈下がおきにくいこと等が理由と推定されるが、正確な理由は未調査である。
 なお、大きな被害を受けた木造タウンハウスでは、今後の復旧に向けて一括建替えを行うのか、傾いた建物のみの修復または建替えを行うのか等、複数の選択肢がある。その合意形成が今後の課題となると予想される。なお、建物が傾斜・沈下した木造タウンハウスの報告では、修復費用は、戸当り450 万円程度と予想されている。

4.過去の液状化被害との違いについて

 過去の大地震においても液状化は発生している。しかし、分譲マンションが多い地域での液状化は、兵庫県南部地震を経験するのみである。阪神では、芦屋浜、及び神戸市のポートアイランドや六甲アイランド等の埋立地で液状化が観測され、大量の噴砂や建物の抜け上がりが生じた。しかし、神戸市では、その被害は護岸沿いの業務地区・倉庫・港湾施設に集中しており、住宅地の被害は比較的小さかった。住宅地では、地盤改良が行われたことが理由とされている。ただし、護岸近くでは、側方流動の発生により杭基礎が損傷して鉄筋コンクリート建物が倒壊する被害がみられ、液状化被害が軽微であったわけではない。
 一方、芦屋浜では、浦安と同様、一戸建住宅が傾く被害が多数発生している3)。これに対してマンション街区では、地盤改良がなされており液状化による被害は軽微であった。ただし、地震動による建物本体の被害は大きく、高層マンションでは、柱に用いたボックス鋼の破断が生じている。
 以上の兵庫県南部地震に比べると、今回の東京湾岸での液状化被害は、住宅地において大きな被害をもたらした点に特徴がある。とくに、マンションについては、建物本体の被害が軽微である一方で、敷地内及びライフラインの被害が甚大であるという両者のギャップが大きいことが、今回の液状化被害の特徴といえる。

5.液状化被害に関する被災者支援策

 兵庫県南部地震との大きな違いは、同震災後の1998 年に「被災者生活再建支援法」が制定されたことである。これにより、被災者に国からの支援金が支給されることになり、さらに2007 年の改正により、収入にかかわらず最大3百万円が支援されることになった。これが今回の震災において適用された。

(1)被害認定見直しによる一戸建住宅の救済
 被災者生活再建支援法は、住宅が「全壊」または「大規模半壊」した居住者に対して、基礎支援金として100 万円、それに加算支援金として、建替え、改修、転居賃借に応じて50 万円から200万円を加えた額を支援するものである。当初、この制度による被害認定基準が、液状化による建物被害の特徴を考慮しておらず問題となった。これを受けて、建物の傾きや沈下による被害認定の基準が緩和され、被災した一戸建住宅については、その多くが「大規模半壊」の判定を受けて支援金の対象となった。
 さらに、国の救済策の対象にならない「半壊」の被害についても、千葉県は独自に100 万円を限度とした支援を行うこととした。以上を通して、一戸建住宅の被害への配慮は、概ね整うことになった。この点は明るいニュースであったが、逆に、建物の被害が軽微なマンションの救済策についての議論を提起することになった。とくに、東京湾岸は広い敷地を抱える大規模な団地型マンションが多い。これらの団地内の液状化によるライフライン被害について、原則は、すべて区分所有者の負担になる。これに対して、一戸建住宅は、住宅の目前まで自治体が復旧費用を負担し、しかも、手厚い支援金が支払われる。漠 然とした不公平感が生まれることになった。

(2)マンションの被害額の例
 ある500 戸強の団地の例を紹介しよう。この団地では、ライフラインの仮復旧費用に4千万円をかけており、さらに本復旧は2億円程度かかると見込まれている。戸当りにすると合計43 万円程度である。この額は、一戸建住宅が傾いた場合の復旧費用(300〜800 万円程度)と比べて少額であり、マンションへの救済が不要であることの根拠になっている。
 また、筆者らの浦安マンション調査では、(1)戸当たり平均復旧費用は、木造タウンハウスを除き28万円、最大で187万円となっている(図3)。
 しかし、戸当たり費用は一戸建に比べて少なくても、それが数百戸という多数世帯に対して同時に負担を求める点に注意しなければならない。しかも、その被害は、団地の敷地内ライフラインに対するものが主であり、一戸建住宅であれば、道路に敷設されている上下水道管等に相当している。自治体が復旧費用を負担する一戸建に比べて、果たして平等性が確保されているのかの検証が必要と考えられる。

6.マンションと一戸建の負担と受益の比較

 以上のような平等性の問題について、学術的観点から検討してみよう。この場合、被害額や支援額の大小を問題とするのではなく、自治体と市民の間の「負担と受益」のバランスがとれているかどうかという観点から検討する。つまり、一戸建住宅が多くの支援を受けていたとしても、多くの公租公課(税金等)を負担していれば、負担と受益のバランスはとれている。さて、実態はどうだろうか。

(1)税負担と受益をどう設定するか
  住宅等の不動産を所有していれば、道路、公園、上下水道、ガス管、電気設備、ゴミ収集、警察、教育など、多くの自治体サービス及びインフラ整備の恩恵を受ける。一方、自治体に支払う税金としては、住民税と固定資産税等(都市計画税を含む)が中心である。これらのうち、本人の居住にかかわらず所有者が負担するものが固定資産税等である。
  固定資産税は、第二次大戦後のシャウプ勧告による税制改正により地方税として位置づけられた。この税は、戦前の資産税(地租と家屋税)の系譜を引き継ぐものとされ、税法上は、自治体のインフラ整備に対する対価とされているわけではない。しかし、今日、資産の種類は、預金、株式、債権等、多様化している。その中で、固定資産だけに課税するわけで、すでに「資産税」としての合理性は失っている。やはり、自治体による公共サービスやインフラ整備の対価として再定義することが、本税の正当性を説明する根拠となると考えられる。この考えに基づいて、以下の試算では、税法上の位置づけではなく、負担と受益から導かれる合理的な姿としての税を仮定して検討する。具体的には、例えば下水道をみると、下水道料金を使用料として支払っている。しかし、下水道を整備する費用のすべてが使用料で賄われているわけではない。下水管を埋設し整備する費用は、不動産所有者に対する地方税等、つまり「固定資産税」と「各種負担金」で担っていると想定される。一方、消防や警察サービスは、居住に伴うサービスであり、これは住民税が担うものとして整理できる。さらに、電気・ガス・電話等は、公共事業体による独立採算であり、以上とは区別して負担と受益が設定されている。以上のように整理すると、不動産の所有者が負担する税金等と受益の関係について、表1のようにまとめられる。これに基づいて、東京湾岸の自治体A市を想定して、一戸建とマンションの比較をしてみよう。

(2)一戸建とマンションの条件設定
  比較用のモデル住宅を表2のように設定する。まず、一戸建住宅の床面積を120 uとし、これと同等のマンションは、室内階段と共用設備の有無を考慮して専有面積108 u(戸当り法定延床面積120 u。但し、廊下階段は法律上120 uに含めない)とする。一戸建住宅の宅地は間口12m×奥行16m、マンションは、団地型として戸当り敷地面積80 u(容積率150%)とする。また、インフラのうち宅地を直接支える道路や埋設管等のライフライン及び公園等(以下、単にインフラと言う)について、宅地周辺に整備されるものを「直接受益分」、幹線道路や広域公園等、広域に便益を与えるインフラを「間接受益分」とする。そして、直接受益分は、宅地外周道路長さと街区内公園面積に応じて自治体が整備費を負担し、間接受益分は、一戸建住宅とマンションで同じ戸当り整備費と仮定する。その他の条件設定は、A市の実態を想定した数値を採用している。


7.試算結果

(1)マンションは2倍の税負担
 試算結果を図4と表3に示した。これらによると、戸当り負担額は、30 年間合計でマンションが一戸建住宅を若干上まわる。想定販売価格は、一戸建住宅の方が4割近く高いにもかかわらず、負担額は逆に安くなるとは意外であるが、その理由は、固定資産税等における小規模宅地の6分の1軽減措置、及び建物の評価額おいて木造が安くかつ経年減価率が大きいことによる。つまり、敷地を広く使って木造とする一戸建住宅の方が、これら軽減措置の恩恵を最大限に受けるため税金は安くなる。
 マンションは、当初5 年間(一戸建は3年間)に限り、建物の固定資産税が半分になるという軽減措置があるが、6 年目以降はなくなる。その結果、30 年間の合計額では、マンションの方が高くなっている。
 これはモデル住宅に限らず、全国共通の実態である。その一方で、敷地を広く使っている一戸建住宅は、自治体によるインフラ整備負担が大きい。試算条件下では、マンションの2倍の負担(戸建住宅側からは「受益」)となっている。その結果、マンションの負担/受益率は、一戸建の2倍という結果となった。
 つまり、マンション所有者は、約2倍の税金を自治体に納めていることになる。

(2)軽減措置を撤廃すると平等になる
 参考までに、固定資産税等において、すべての軽減措置を撤廃し、経年減価無しとして試算してみると、一戸建住宅の30 年間負担額が2200 万円で、マンションは1480 万円になる。ほぼ販売価格に比例した額になる。その結果、負担/受益率は、一戸建1に対してマンションは1.34 になる。まだ高いが、マンションにおいて街区公園の整備を一戸建住宅地と同じく公共負担にすると負担/受益率の比は約1.0 と平等になる。
 つまり、もっぱら、固定資産税等における軽減措置と経年減価補正が、一戸建住宅を有利にし、マンションを不利にしているわけである。


8.液状化が顕在化させた不平等制度

 以上のように自治体のインフラ整備において、一戸建住宅はマンションの約2倍の恩恵を受けている。言い換えれば、半分しか税金を負担していない。このような状況下で、今回の大震災による液状化被害が発生したわけである。
 いうまでもなく、大規模な液状化によって被害を受けたのは、まさに宅地を支えるインフラ(道路、埋設管、公園や広場)であり、その中でもライフライン(道路や埋設管等)の被害が大きい。では、その復旧費用の負担は誰が行うのだろうか。もし、現在の私有地公有地という原則通りに復旧費用を負担すれば、上記で試算した不平等が再生産されることになる。つまり、団地型マンションは、敷地内のライフライン被害の復旧は自己負担とされる一方で、税金を一戸建住宅より多く負担するという不合理を甘受している。その結果、一戸建住宅の液状化被害について公的支援が充実すればするほど、マンションにとっての不平等感が高まることになる。
 なお、千葉県浦安市は、マンション敷地内のライフライン被害について、3000 万円を限度に補助を実施することを決定した。この判断は、上述した見地から学術上の合理性をもつといえる。
 また、現行制度下では、市町村に固定資産税等の課税条件を変更する権限はないため、根本的な不平等是正を自治体が行うことはできない。このため、浦安市のような補助金によるマンション支援が、現時点では妥当であるといえる。
 さて、本稿で論じた問題は、税負担と受益(災害時の支援を含む)の公平という点で、社会の根本に関わるものである4)。これが、今回の液状化による被害を通して顕在化したと考えられる。
 今回の震災被害に限らず、不平等税制の解決のためには、税法(固定資産税関連)の抜本的改革を必要とする。筆者は、固定資産税のうち不動産を対象とした税は、自治体のインフラ整備の対価と位置づけることとし、その結果として、建物は単純に床面積で評価し(広い住宅ほど自治体サービスの恩恵を受けているとし)、経年減価補正は無しとするべき(資産税ではないため老朽化を考慮する必要はない)と考えている。一方、住宅に対する軽減措置については、住宅は別に住民税を負担するため軽減措置には合理性があり、土地と建物を同じとして、例えば1/3とすることが一案である。この詳細は、いずれ稿を改めて論じることにしたい。

(補)本稿は、一戸建とマンションの被災者支援について、負担と受益の関係から論じたものである。しかし、被災者支援を、被害に対する見舞金または福祉として位置づけるのであれば、別の議論が成り立つ。例えば、被災世帯の困窮度に基づいて支援するという議論になる。なお、現行の被災者生活再建支援法では収入制限は撤廃されている。このため、困窮者に対する見舞金という位置づけには無理があるが、個人財産に対する補償は、地震保険が担うとするのが政策上の位置づけであり、本制度は、建前上は「見舞金である」という苦しい説明がなされている。
 また、本稿は、液状化によって浮き彫りとなったライフライン被害の復旧支援の不平等性に焦点をあてたものであり、建物本体の被害について論じたものではない。このため、建物被害についての被災者支援については、本稿とは別の議論が成り立ちうることに留意されたい。

<注と参考文献>
1)千葉県環境研究センター「千葉県内の液状化」第1報 〜第3報、2011.3.15〜5.30。
  同センターのホームページ で公開している。
2)浦安マンション調査の概要:実施主体は、日本マンション学会他(作業は千葉大学小林研究室他)
  実施日は 2011.6 月〜7 月。浦安市の液状化対象地区のマンション全 数に郵送配布。
  58 配布(他に4 宛先不明で返送)、35 回収 (回収率60.3%)。
3)藤井衛他3名「兵庫県南部地震の液状化地帯における 戸建住宅の基礎の被害と修復」土と基礎
  46(7), pp.9-12,1998.7.1
4)固定資産税の不平等に関する記事として、拙稿「マン ション考現学:不公平な固定資産税」
  朝日新聞東京版、 2003.7.4


千葉大学工学部都市環境システム学科小林秀樹研究室
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