HIDEKI'S COLUMN 2010


2010.11.16

もうひとつの住まい方推進フォーラム東京大会 2010.11.28 基調講演要旨

「複合」の魅力とその可能性

小林秀樹 千葉大学教授

1.なぜ、「複合」がテーマなのか

 福祉施設をみると、デイサービス、老人ホーム、短期入所施設、療養医療施設等のように目的や機能が細かく分けられていることが多い。しかし、いうまでもなく、私たちの暮らしは、連続的かつ包括的である。そのズレから生じる問題は、昔から指摘されてきた。
 この問題に対して、近年では、小規模多機能型居宅介護施設(通い・宿泊・訪問の一体化)、あるいは認定こども園(幼稚園と保育所の一体化)などのように、縦割り制度を見直し、人々に暮らしに沿って総合的にサービスを提供する試みが始まっている。これは、好ましい動きと評価できるが、まだ端緒に着いたばかりである。
 また、最近の特色の一つは、地域に密着した小規模な施設を、既存の空き家などを活用して開設する事例が増えていることである。そこでは、住宅と施設という硬直的な建築区分の見直しが求められている。加えて、NPOなどの非営利組織が発達し、それが、社会福祉法人や株式会社などと連携する事例が増加し、組織形態についても多様化が進んでいる。
 以上の動きをひと言で言えば、「縦割り制度」を見直し、私たちの暮らしの実態に近づける試みといってよいだろう。これらの試みは、複合・混合・連携・協働・総合・合築・中間などの言葉で表されるが、ここでは、「複合」という言葉で代表させることにしよう。つまり、「複合の可能性の追求」が、今日の重要なテーマである。

2.施設の細分化を見直す

 ところで、「複合」という言葉には、施設をある程度細分化することはやむを得ないという認識の上に、それらを複数集めて連携させることで、人々の暮らしに合った魅力的な居場所を実現するという意味が込められている。
 もちろん理想は、既存施設にとらわれることなく、私たちの暮らしの実態にあうように、自然に活動・サービス・居場所が生まれ、それが、そのまま社会に定着していくことである。しかし、公的補助を期待すれば補助対象の絞り込みが求められ、税制や建築基準の規制緩和を求めれば、規制緩和する対象の絞り込みが求められる。
 恐らく、補助や規制と無関係であれば、細分化など気にする必要はない。しかし、子育て、高齢者、障害者などの福祉分野では、公的な補助や規制から逃れることは難しい。そこに、「複合」を問いかける基本的な背景がある。
 私たちにとっての現実的な解決策は、活動・サービス・居場所を類型化して、補助・規制対象を絞り込むことを受け入れた上で、それらを複数組み合わせることで、魅力的な活動・サービス・居場所を生み出すことである。
 そして、「複合」の障害となる縦割り制度があれば、その問題点を提起して、よりよい方向に変えていく。その中から新しい施設が生まれてくることもあろう。例えば、デイサービス、ショートステイ、訪問介護を複合して、新しい施設種別である「小規模多機能型居宅介護施設」が制度化されたような成果である。
 もっとも、現在、小規模多機能型居宅介護施設とグループホームを併設する場合、施設ごとに介護人員の配置数や建築条件などが定められるため、互いに有機的に連携しにくいという新たな問題も報告されている。つまり、縦割りの弊害は永遠に解決されるものではない。しかし、より暮らしの実態にあった方向に、一歩一歩進めることはできるはずである。

3.複合の魅力を追求する

 「複合」の魅力とその可能性について、以下の3つの視点からみてみよう。

(1)利用者の視点
 多くの施設は、利用者を区分している。保育所ならば、0歳児から小学入学前までであり、高齢者施設ならば65歳以上であることが多い。また、介護の程度によっても、常時介護を必要とする特別養護老人ホームと、自立生活者を対象とする軽費老人ホーム(ケアハウスなど)に分かれている。つまり、利用者の特性によって施設を細分化している。これに対して、「複合」によって、より魅力的な居場所を生み出せないだろうか。
@多世代の複合
 昔の三世代同居のような老若男女が集まる暮らしは、人々に生活の楽しさや刺激、あるいはは逆に、気分転換や逃げ道を提供したであろう。これに対して、例えば、高齢者だけが集まる暮らしは、同じ生活様式をもつという安心感がある一方で、刺激が乏しく、また対人的な逃げ道がない生活環境になる恐れがある。そこで、「多世代の複合」の可能性を追求したい。例えば、高齢者施設と保育所を複合する例がある。異世代の交流にまで発展している例は多くはないと聞くが、しかし、子供から老人までを近くに見かけるだけでも楽しい。
A多様な障害程度の複合
 また、「障害程度の複合」も重要である。筆者は、カナダで、重度障害者と障害のない人々が一つの建物で暮らすコープ住宅を調査した。コープ住宅とは、居住者自身が自主的に運営する(組合所有する)賃貸住宅のことだが、その事例では、障害者は、受け身ではなく、住宅の運営を担っていた。その効果は大きい。実に生き生きと障害者が暮らしていた。一方、障害のない人も様々な経験をする。もっとも、ボランティア精神だけではない。家賃が安いというメリットもある。さらに、公共にとっても、障害者が自立して暮らすことは、公的負担を軽減するというメリットがある(それまで重度障害者は病院暮らしであった)。 わが国でも、障害者と障害がない人が一緒に暮らすシェアハウスが登場しており注目される。 
B多様なサービスの複合
 例えば、幼稚園(教育が行われる)と時間外保育のサービスを合体すれば、働く家庭にとって大きな支援となる。つまり、教育サービスと保育サービスの複合である。認定子ども園は、そのようにして生まれた。このように、暮らしの実態に合うように様々なサービスを複合させていくことが求められる。
 また、利用者を細分化した施設では、年齢の上昇とともに、あるいは、要介護度の変化とともに、別の施設に移ることが求められる。それが、可能になるためには、次のステップの施設が空いていることが必要である。例えば、保育所から小学校に円滑に移行できるのは、学校に全員入学できるためである。しかし、例えば、自立型のケアハウスはどうだろうか。介護が必要になった段階で、別の介護施設に転居できるだろうか。当然ながら容易ではない。このため、介護保険サービスを用いて中程度の介護まで対応するケアハウスが増えている。よく考えてみれば、当然の対応である。しかし、その結果として、利用料の高額化が生じる。要介護高齢者の人数にかかわらず、介護ができる職員や介護設備を準備することは、極めて非効率だからである。逆に言えば、施設を細分化する目的は、同様なケアを求める人々を集めることで、効率よく、また安価にケアを提供することなのである。
 この矛盾はどう解決したらよいのだろうか。そこで登場するのが、「複合化」である。例えば、1階に在宅サービス施設を複合して、それらは、地域向けに利用者を確保して運営を安定させる。同時に入居者にサービスを提供する。このようにすることで、介護の設備・人員の合理的な配置が可能になると考えられるのである。

(2)担い手の視点

 様々な担い手が複合する(連携や協働する)ことの可能性も重要である。
@多様なスタッフの協働
 様々な能力と知識をもつ人々が協働すれば、より質の高い活動ができる。その可能性を追求したい。しかし、どのような動機で協働するのだろうか。一般企業では報酬が動機づけになるが、しかし、例えば、高齢者への配食サービス、居場所づくり、コミュニティカフェ等の新しい試みは、一般に経営は厳しい。つまり、十分な報酬を支払うことはできない。では、何が動機づけになるのだろうか。大きくは二つある。  一つは、社会への参加意識であり、もう一つは、利用者と運営者の一体化である。
 前者は、いわゆるボランティアであるが、これは単なる労働力ではない。その活動を企画・運営していく中核スタッフでもある。つまり、社会参加という生き甲斐につながる。ワーカーズコレクティブと呼ばれる仕組みも、その一種とみることができる。十分な公的補助が期待できない施設、高額利用料を設定できない施設では、有償と無償のスタッフをうまく複合させることが求められる。近年、NPOが関わる施設が増えているが、その背景には、NPOであれば専門家と無償ボランティアとの協働を進めやすいことがある。
 後者は、どうだろうか。生協、ボランティア貯蓄、地域通貨、助け合い活動などでは、人々は、利用者でもあり運営者(サービス提供者)でもある。このような仕組みによって、私たちの暮らしが求めるサービスを成立させることも、複合による可能性の一つである。
A地域住民との連携−施設づくりから地域づくりへ
 多様な利用者、多様な機能をもつ施設が実現すれば、それは、より多くの地域住民が関わる場となり、自然と地域の拠点になりやすい。逆に、地域の拠点として認知されることで、利用者がふえ施設等の運営がうまくいくことも多い。このため、地域住民と施設の連携が重要になる。例えば、地域住民の参加により施設計画を詰めていく、あるいは地域住民が施設スタッフやボランティアとして施設を支えるという活動である。
B不動産所有者との共同
 土地所有者(あるいは空家であれば建物所有者)が果たす役割も重要である。従来は、不動産所有者は、利益を求める立場であることが普通であった。しかし、新しい事例では、所有者は、サービスの利用者であったり、ボランティアであったり、運営者であったりと様々な役割を果たす。これも、複合の一側面である。

(3)建物計画の視点

 最後に取り上げるのは、建物計画から見た「複合」の可能性である。
@土地の複合利用
 地価が高い立地、あるいは土地が限られている立地では、複数の施設を立体的に複合することで、地価負担を下げることができる。このような目的による複合は一般的にみられる。
A空間と設備の複合利用
 複数の施設を複合することで、共用空間(食堂や事務室など)を相互に利用できるため、空間の効率的利用につながる。特に、利用時間が異なる施設を複合すると効果がある。例えば、昼間利用の多いスーパーの駐車場と、夜間利用が多い住宅の駐車場を複合すれば総台数は減らせる。さらに、前述したように、介護用設備を充実するためには、地域向けのサービスと入居者向けサービスを複合することで利用効率をあげることが有効になる。 
B住宅と施設の融合−既存建築の利用
 最後に取り上げるのが、近年注目される空き家を用いた活動の増加である。例えば、高齢者の居場所づくり、シェアハウス、グループホーム、空き家活用のデイサービス、等である。では、このような事例は住宅なのだろうか、それとも施設なのだろうか。恐らく、住宅でもあり、施設でもある。しかし、時々、建築基準の適用を巡って争いになる。施設ならば、スプリンクラーや防火戸の設置をはじめ、多くの建築規制が関わってくるからだ。とはいえ、施設と呼ぶには小規模で住宅に近すぎる。既存住宅をほぼそのまま利用しているという趣旨を踏まえて、柔軟に対応することが課題になるだろう。

4.縦割り制度を一つ一つ解決していくために

 様々な施設やサービスを複合すると、現行制度の壁に悩まされることがよくある。例えば、保育所と高齢者施設の間は、固い壁で区切りなさいと指導される。せっかく、異世代交流をしやすくしようと思っても、法制度がそれを阻んでいる。これは、建築基準法の防火区画の中で、異種用途は区画するという規制からきている。しかし、もし、複合施設が一体的に運営されていたらどうだろうか。それは、異種用途ではなく、一つの新しい用途ということになろう。
 また、公共施設では、所轄省庁により施設整備基準が定められていることが多い。つまり、施設ごとに人員配置や必要面積を定めるのである。これも、複合施設において空間の複合利用を否定することになる。例えば、特別養護老人ホームでは、関連福祉施設と複合したときは、食堂や事務室などを兼用できるとしている。しかし、関連福祉施設に保育所は含まれるのだろうか、兼用の場合の面積基準はどうなっているのだろうか、すべてはグレーである。
 以上の問題を解決するためには、@新しい施設用途を臨機応変に設定すること、A複合施設・複合サービスを想定して施設整備基準を工夫すること等を通して、一つ一つ地道に取り組んでいくことが大切である。
 実は、以上の問題の根本には、何か事故が発生すると行政の責任を問うという、わが国の風潮が強く影響している。このため、行政は規制強化を積み重ねてきた。そこで、私たちに求められることは、縦割りの弊害を指摘すると同時に、自己責任の原則を確認することである。
 「複合」は、今日の福祉と住まい分野のキーワードである。その可能性を追求することで、人々の暮らしの実態によりあった活動・サービス・居場所を実現したいと思うのである。


千葉大学工学部都市環境システム学科小林秀樹研究室
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