HIDEKI'S COLUMN 2010


2010.06.09

日本不動産学会誌87号2009.4より

組合所有は区分所有に代わりうるか

Co-operative Housing as alternative to Condominium

小林秀樹 千葉大学教授

はじめに

 日本のマンションにおいて、建替えや改修の合意形成の難しさが指摘されるとともに、集合住宅の所有形態として別の選択肢(オルタナティブ)があるのでは、という関心が高まっている。1)
 その選択肢の一つとして、組合所有に基づくコーポラティブ・ハウジング(以下、コープ住宅という)
2)がある。例えば、アメリカのニューヨークでは、区分所有のコンドミニアムよりコープ住宅の戸数が多く、また、スウェーデンのように、集合住宅の持家化の方法として組合所有を選択した国もある。日本では、組合所有を裏付ける法制度がないことから、筆者が知る限り実例はないが、同様な仕組みを株式会社により実現した例としてコミュニティハウス法隆寺がある。
 本稿では、欧米のコープ住宅を概観しつつ、区分所有のオルタナティブとして組合所有の可能性を考えてみたい。


1.欧米のコープ住宅の特徴


 日本のコーポラティブ住宅は、居住希望者が組合を結成して集合住宅の建設を発注するもので、建物の完成後は一般分譲マンションと同じく区分所有になる。「日本のコーポラティブ住宅は完成したら卒業する」といわれる所以である。しかし、このような住宅組合のあり方は世界的には特殊である。欧米でコープ住宅といえば、住宅組合が所有し運営する住宅を指す。その歴史は古く、イギリスで協同組合運動を背景として19世紀後半に登場し、その後、ドイツや北欧に広がり各国に根を下ろした。つまり、区分所有より先に普及した所有制度である。
 一方、新大陸アメリカでは、19世紀末のニューヨークにおいて、人種や宗教を同じくする者の社交クラブ的な発想に基づいて、ホームクラブと呼ばれる最初のコープ住宅が建設された。本格的な普及は、第一次大戦後であるが、その頃には、アメリカ独自の中高級コープ住宅と、欧州の影響を受けた協同組合運動の一環としての低中所得者向けコープ住宅の2系統が存在している。その後、大恐慌による数多くの住宅組合の倒産という荒波を経験するが、第二次大戦後は、政府の融資支援等により再興し、ニューヨークを中心にアメリカ社会に根を下ろした。今日では150万戸を数える世界有数のコープ住宅大国になっている。
 図1は、コープ住宅の多様なタイプを整理したものである。


1)組合所有には持家型と借家型がある
 最も一般的なタイプは組合所有である。この場合の組合員は、その住宅の居住者に限定されることが一般的である。コープ住宅の建設等の事業資金は、組合員(居住者)による出資金と、組合が政府や銀行等から借入れる資金によってまかなわれる。組合は、居住者から毎月住居費を集め、そこから借入金を返済することになる。
 このような仕組みの結果、組合員は、住宅組合に対して出資に応じた持分権をもつが、この持分権を市場で売却できるタイプ(持家型)と、売却はできず借家に近い性格をもつタイプ(借家型)がある。
 前者は、アメリカの中高級コープ住宅やスウェーデンのコープ住宅が典型で、区分所有マンションに近い性格をもつ。この場合、持分権の売買を成立させるために融資が必要になるが、不動産を個人所有していないため不動産担保が成立せず、多くの国では融資が困難であったり、融資できたとしても高金利であったりする。このため、持家型コープは普及していない。一方、アメリカやスウェーデンでは、政府の融資保証を契機として、個人の持分権売買に対する融資制度を発達させており、このことが、持家型コープ住宅の普及につながっている。
 一方、後者の借家型は、政府が低利融資等の補助を行い、家賃を安くしたアフォーダブル住宅(支払い可能住宅)としている国が多い。政府補助の条件として、転売時の価格制限、収入制限等を課している。これらは公的性格が強く、協同組合運動の流れを汲むコープ住宅の多くが該当する。しかし、一般の公共住宅に比べると、居住者が主体的に住宅運営に参加する点で大きな違いがある。

2)管理型コープと建設型コープの特徴

 以上の他には、住宅組合が管理運営だけを担う管理型コープがある。特に、1990年代に各国で進められた公共住宅の払下げ過程でみられ、まず管理型コープを結成して経験を積み、その後、所有権を取得して組合所有に移行する例がみられた。
 一方、日本のように住宅建設段階でのみ組合を結成するタイプがあり、これは、建設型コープと呼ばれる。日本以外の代表例として、北米のコ・ハウジングがある。コ・ハウジングは、共用食事室の確保など共同生活重視の住まいとして知られるが、その中には、設計過程への居住者参加をテーマとしている例もある。また、韓国でも、同好人住宅と称して戸建住宅地や集合住宅の協同発注が行われている。これらは、建物の完成後は、区分所有や個別所有になるものである。
 次節では、区分所有マンションに近い性格をもつ持家型コープに焦点をあてて、その特徴を考察しよう。そこには、マンション再考のヒントが隠されているはずである。


2.持家型コープとコンドミニアムの違い


 各国でコンドミニアム(区分所有)の法整備が進むのは1960年代前後である。これとともに、持家型コープの新規供給は停滞に向かう。つまり、集合住宅の持家化の方法として、区分所有のほうが優れていると判断されたのである。しかし、ニューヨークやスウェーデン等では例外的に持家型コープが発展した。その理由を考えてみよう。

1)コープは入居者を審査する

 北米のコープ住宅では、入居時に審査が行われる。これは、コープ住宅の入退居は、住宅の売買ではなく組合員の交代であるため妥当とされている。一方のコンドミニアムでは、専有部分に所有権及び抵当権設定を認めたことの裏返しとして、管理組合による売買への関与をできる限り排除する仕組みになっている。
 以上の違いが、人種や宗教が多様なニューヨークにおいて、持家型コープが定着した理由と考えられる。つまり、審査を通じて居住者の同一性を確保できる住宅として支持されたわけである。なお、アメリカでは人種や宗教を理由にした差別は法律で禁止されている。しかし、事実上、様々な理由をつけて入居者の同一性を保っているといわれる。4)

2)コープ住宅の意思決定は法人と同じ

 第二の違いは、大規模改修等の実施における意思決定の迅速さにある。日本のマンションでは、法律で特別多数決(例えば4分の3以上)という高いハードルが課せられている。これに対して、コープ住宅では、除名や解散等の手続きが法律で定められている他は、定款により合意要件を相当自由に定められる国が多い。例えば、北米では、理事会にほとんどの事項を委ね(住居費滞納者の除名決議もできる)、その理事会の決定に組合員が異議を唱える方法や、理事を選出・リコールする方法を整えるという、会社法に近い考えをとっている。
 以上の特徴に加えて、スウェーデンのコープ住宅では、上部組織からの専門家派遣を制度化したり、保育サービス等を導入したりしている。この点を明らかにするために、以下、スウェーデンの状況を概観しよう。


3.スウェーデンにおけるコープ住宅


 スウェーデンの住宅ストックは、2004年時点で約430万戸であり、37%が持家(一戸建か二戸建)、47%が賃貸(集合住宅中心で公共と民間が半々)、16%がコープ(集合住宅が中心)となっている。

1)コープ住宅の概要

 スウェーデンのコープ住宅の仕組みは、借家人兼所有者の組合(tenant-owner co-operative。以下TOCと呼ぶ)が不動産を所有し、その組合から各居住者が借家権を得る方式である。日本では、この借家権を「居住権」と訳すことが多い。
 最大の特徴は、退去時に居住権を市場価格で売却できることである。しかも、居住権の購入に融資が受けられる。この点で分譲マンションに近いが、当初から持家型コープであったわけではなく、1980年代の金融緩和の流れの中で、金融機関がTOCの居住権証書を長期ローンの担保として認めることと相前後して、市場での売買の自由化が定着し、借家型から持家型コープへの転換が進んだものである。5)
 TOCは、個別の建物あるいは団地ごとに結成され、数戸〜数千戸とばらついているが、50戸以下が過半である。当初は、TOCが事業費の融資を受け、その返済を毎月の住居費で行う形態であったが、1990年代初頭に低利融資などの優遇措置が廃止されたことで、TOCが融資を受けるメリットがなくなった。このため、居住権価格を高く設定し、販売段階で事業資金の全額回収をはかるプロジェクトが一般化している。例えば、ストックホルムの2000年の供給例では、80平米で居住権価格が2500万円、住居費が月5万円強。その後のバブルの発生により居住権価格が約3倍に急騰している。この点でも、分譲マンションに近づいている。
 とはいえ、TOCの運営に住民が主体的に関わる点では、日本のマンションの管理組合とは意識にかなりの差がある(後述)。

2)HSB(借家人貯蓄建築組合)

 TOCには、大きな全国組織に属している「従属系(attached)TOC」と、それに属さない「独立系(independent)TOC」がある。全国組織の代表は、HSB(借家人貯蓄建築組合)であり、約36万7千戸、コープ住宅の約半数を供給し傘下においている(2007年末)。
 HSBは3段階で構成されており、貯蓄銀行をもつ全国HSB、TOCを供給・管理する地域HSB、そして各TOCである。一方の独立系TOCは、建設会社、住民組織、地方自治体が関与するものなどがあり、その全国組織としてSBC(スウェーデンTOC中央団体)がある。但し、任意加入のサービス団体であり加入率は1/3程度とされる。
近年の課題の一つは、高騰した居住権価格の低減と新規供給の拡大である。例えば、全国HSBの組合員数は537千人(2008年)である。すなわち、HSBに貯蓄をしながら順番待ちをしている者が170千人にのぼるわけで、入居まで10年待ちといわれる。子供の頃から組合員になる者も多いという。その一方で、地方都市では入居者が集まらずに困難を抱えるコープ住宅もみられる。
 また、HSBは、少子・高齢化社会の進展を背景として、1991年に生活サービス部門を独立・発展させ、保育所や高齢者ケア付き賃貸住宅の経営など、賃貸経営やサービスの提供を行うようになっている。自治体サービスと異なり、利用者の意見を経営に反映できる点が特色となっている。

3)コープ住宅における管理運営の特徴

 コープ住宅では、居住権者全員の総会と、総会で選出された理事による理事会がある。理事会は、住居費の決定や改修の実施など多くの権限を有している。従属系TOCでは、理事の一人が親組織から派遣される。その理事が専門的知識をもつため、その意向に決定が左右されることが多いという。総会出席率は20〜30%で高くはないが、親組織が主導する理事会に任せておけば安心ということのようである(注5の文献A)。
 コープ住宅の選択理由をみると、住宅運営への居住者参加をあげている者は10%程度にすぎない。多数は、良質な賃貸住宅への入居が難しいことと、持家を確保することを理由としている。つまり、表面的には分譲マンションの管理組合と変わらない。しかし、次の点で決定的な違いがある。
@意思決定の迅速さ
 主要な事項は理事会で決定できる。つまり、TOCは会社に近い性格をもつ。この点は、大規模修繕や改修などをめぐる意思決定の迅速さにつながり評価できる。
A入居前教育と民主主義の学校としての機能
 HSBでは入居までの教育が充実しており、居住者参加により管理運営することの意義が教育される。しかも、コープ住宅の特徴として、受講を義務づけることができる。日本のマンションにおける管理意識の低さをみると、このような強制力を前向きに評価してよいと思われる。また、総会や理事会は、民主主義の学校と呼ばれることもある。
B専門家による管理支援の組み込み
 従属系TOCでは、親組織から派遣された専門家が理事会を補うことが制度として組み込まれている。住民主体の管理運営を支える制度として興味深い。
 以上を総合すると、スウェーデンのコープ住宅は、銀行融資や資産価値の点で区分所有マンションと何ら変わらない一方で、管理運営面では、むしろ区分所有より優れた仕組みを発展させたことで、区分所有制度の導入を不要にしたと考えられる。


4.日本における組合所有の可能性


 日本における組合所有の可能性について考えてみよう。

1)新築段階では高齢者向けなどに限定される

 日本の実例としては、組合所有に類似の仕組みをもつ「コミュニティハウス法隆寺」がある。これは、高齢者を中心とした8世帯が株式会社をつくり、土地は定期借地権として集合住宅を建設したものである。全員が出資金及び建設協力金を一括払いしており、銀行融資無しで発足している。もちろん、担保がないため個人の出資金等に融資を提供することは容易ではなく、現在の金融制度では一般化は難しい。しかし、高齢者向けなど限定した場面では十分に可能性があろう。
 また、筆者らは、合同会社を用いて日本型コープ住宅を実現する方式を提案し、土浦市で実現を目指して新聞発表と入居者募集を行った。この新方式は、国土交通省の街なか居住再生ファンドを用いることで、居住者出資を事業費の2〜3割に押さえ、金融機関が残り約5割の融資を提供することで事業を成立させるものである。残念ながら、集まった入居者希望者は、ほぼ高齢者に限られ一般ファミリーの反応は鈍かった。合同会社方式は、個人がローン負担を抱える必要がなく、生活サービスを導入しやすいという良さがあるが、一方で、費用負担は分譲マンションと同等であること、空家が生じた場合に共同責任になることへの不安があることから、利点が乏しいと判断されたようである。
以上から、新築段階でのコープ住宅の導入は、現時点では、高齢者向けなどの特定目的を除いて一般化は容易ではないと考えられる。

2)賃貸住宅の払下げの方法として可能性大

 ところで、イギリスやスウェーデン等では、1990年代以降、小さな政府を目指して公共賃貸住宅の払い下げが行われたが、コープ住宅がその受け皿の一つとなった。つまり、官から民への流れの中で、公共住宅に比べると、住民の自助努力を引き出す仕組みとして再評価されたわけである。
 この点は日本でも同様であり、例えば、郊外住宅(UR賃貸等)の払下げの方法として大きな可能性がある(図2参照)。その要点は、居住者全員ではなく半数程度の参加によりコープ住宅に転換する方法にある(詳細は文献参照)6)。このように古い建物を活用する場面では、各個人の資金負担とリスク負担が軽いため、新築に比べると日本型コープ住宅の実現可能性は高いと考えられる。

 

おわりに

 組合所有住宅は、政府による融資支援がない限り実現は難しいという限界がある。しかし、そこで育まれた管理運営面の工夫には参考になる点が多い。具体的には、@入居時の審査・面接の実施、A入居前教育の義務づけ、B滞納者の除名や建物改修等における意思決定の迅速さ、C専門家による理事会支援の制度化、D生活サービス等の導入のしやすさ、E公的支援の受け皿としての役割、などの特徴である。
 これらは、現在のマンションを見直すための参考になるだろう。さらに、高齢者向けや古い賃貸住宅の払い下げの場面では、区分所有のオルタナティブとして組合所有を導入することも有力だろう。前述した街なか居住ファンドや会社法改正による合同会社の創設など、実現を支える環境がようやく整いつつあると考える次第である。



(注と参考文献)
1)もうひとつの住まい方推進協議会(オルタナティブ・ハウジング&リビング)の活動参照のこと。ホームページはhttp://www.ahla.jp
2)CO-OPの英語発音はコウオプである。しかし、本稿では、日本で定着しているコープと表記することにした。
3)小林秀樹「世界のコープ住宅」、『生活科学U?住民主体住環境整備』日本放送出版協会200.10、2章に所収。
4)竹井隆人「集合住宅デモクラシー」世界思想社、2005.7
5)スウェーデンの状況については、下記文献を参考にした。@ハウジングアンドコミュニティ財団編著「NPO教書」風土社1997。A“The co-operative alternative in Europe: The case of housing”1999。B“Housing and housing policy in Sweden” Ministry of Finance,2004
6)住宅総合研究財団「すまいろん」通巻76号、特集:住宅組合−公私の中間、2005.10


千葉大学工学部都市環境システム学科小林秀樹研究室
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