千葉土建2005.9.11講演要旨1
安心安全な街づくりのための耐震改修はどうあるべきか
はじめに
震災への不安が高まっている。これに伴い、住宅の耐震診断や耐震補強への関心が高まっており、それに対する自治体の助成等も行われている。しかし、関心の高さほどには普及は進まない。なぜ、耐震診断や耐震補強が普及しないのか、今後、どのようにすれば安心安全な街づくりが進むかを考えてみたい。
住宅は準公共財である
住宅に対する公的助成は、持家取得支援を初めとして古くから行われている。しかし、今日、財政危機の中で自助努力が求められ、個人の財産への助成は相当の理由がないと認められない。つまり、耐震対策について言えば、自分で地震保険に入ったり改修工事をしたりするのが筋であるという考えである。
その一方で、市民の安全を守るために公的助成が必要だという主張は、一定の政治的支持を得やすい。しかし、耐震改修への助成が幅広く定着するためには、より明確な理念が必要である。これに関して、現在、国が検討している住宅基本法が参考になる。
基本法制定の背景には、住宅は個人の財産だが、しかし同時に、公共の財産としての性格を併せ持つという理念がある。なぜそうなのか。理由は3つある。
第一の理由は、住宅は「衣食住」といわれる生活保障の要件であるからだ。災害で住宅を失えば、冬ならば生命の危機にさらされる。だから、政府が関与する必要があるというわけだ。
第二の理由は、住宅は、一度建設されると長期にわたり存在するからだ。このため、その時の個人的要求で建設・改修するだけではなく、次世代のために建設・改修する必要がある。これを、政策的には「良質な住宅ストックの形成が必要」と言う。耐震補強も、次世代に残す住宅をストックするために重要であり、自動車や家電のように市場原理の中に放任すればよいという訳ではない。
第三の理由は、住宅は、町並みを形成する要素であるからだ。例えば、周りを無視して勝手に造ると町並みの価値を損なう。また、災害時に倒壊したり火災を起こしたりすると、街全体に迷惑が及ぶ。このため、ある程度の規制または公的助成をして、街にとって望ましい建物を誘導することが必要になる。
震災対策のための住宅助成は、以上の理由から求められる。つまり、生存保障のため、次世代のため、街のためなのである。もちろん、公共財ではなく「準公共財」である。自己負担と公的助成の組み合せが基本になる。
スケルトンとインフィルを分ける −公的関与はスケルトンが対象−
ところで、住宅が準公共財だというと怪訝に思う方も多いだろう。システムキッチンが公共財の性格をもつのかと。実は、建物をスケルトン(骨組み)とインフィル(内装設備)の二つに分けることが必要になる。そして、公共財としての性格をもつのは、スケルトンである。生存のために雨露を防ぎ、次世代へと引き継ぎ、そして街に影響を与えるのは、内装設備ではなく、長持ちする建物の骨格、つまり「スケルトン」なのである。
耐震改修は、準公共財としての住宅のスケルトンを対象とする。それ故に、できる限り政府が関与すべきであると考える。関与とは、規制または助成ということである。
なぜ、耐震補強が進まないのか
さて、生存保障・次世代・街のために震災対策が重要だとしても、なぜ、住宅の耐震補強が進まないのだろうか。実は、これまでの話は、公共からみた理屈を言っているに過ぎない。個人にとっての必要度とは無関係だ。普通の人々は、
(1) 次世代のためにお金は使わない(その余裕はない)
(2) 街のためにお金は使わない
(3) そして、あるかどうか分からない震災のためにお金は使わない、のである。
最後の(3)は注釈が必要だ。あるかどうか分からないのは、交通事故も同様だが、多くの人々は任意保険に入る。なぜ、震災となると積極的ではないのだろうか。その理由は二つある。一つは、自分だけが被害者ではなく、地域のみんなが被害を受けるため仕方ないという一種の諦観があることだ。もう一つは、費用が大きいということだ。
費用に関しては、木造戸建で100〜300万円が目安になる。耐震改修費の1/2〜1/3程度を助成する自治体が増えているが、それでも自己負担は100万円をゆうに超える。しかも、耐震改修が必要な老朽家屋には高齢世帯が多い。震災が起きれば仕方ないと考え、しかも起きるかどうか分からないとなれば、100万円でも高いと感じるだろう。
リフォームへの総合的対応が基本−耐震改修だけでは仕事にならない−
住宅のリフォームは、日常生活の不便さを改善し、快適な生活を実現しようとする時に真剣に考える。つまり、震災への備えだけでは、改修工事を実践しないのである。従って、耐震改修は、快適な生活の実現・高齢者の使いやすさ・防犯性の向上など、目前の改修ニーズと一緒にして考えることが大切だ。しかも、他のリフォームと同時に耐震改修工事をすれば、柱の補強と壁紙の張替えを一緒にできるなど、耐震工事費も割安になる。
事業者には、総合的にリフォームをアドバイスできる知識が求められる。例えば、高齢者にやさしい風呂や便所の改造、和室をフローリングに変更する改造などのリフォームに応えつつ、「耐震改修も一緒に行うことが大切ですよ。同時に工事する方が安上がりです」とアドバイスするのが望ましい。そして、震災には地域社会の助け合いが大切だと言及することもあってよい。それにより消費者の事業者に対する信頼が高まる。
リフォーム業者に対する不審が強い現在、地震が恐いといって不安をあおるのは、良心的な建築人としては最も避けたいだけではなく、そもそも耐震改修が定着しない道である。それが、ここ数年の経験の結論である。
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