2004.11.10

都市のコンパクト化に向けた第3ステージの住宅政策

(国際都市政策会議、2004.11.10 住宅分科会・基調講演より)

日本の住宅政策は、第二次大戦後の住宅不足を背景とした「量の充足」の時代を経て、1970年代以降は、高度経済成長を背景とした「質の向上」の時代を迎えた。そして、現在は、下記の背景を受けて「立地の再編」をテーマとした第三ステージに移行しつつある。

1.高度成長期に供給された郊外住宅地の居住者が高齢期を迎え、車の運転が難しくなるとともに、買物や通院等に支障が生じることへの強い不安が顕在化している。

2.その一方で、中心市街地等への住み替えが容易ではない。その理由の一つは、中心市街地に魅力的な住宅とコミュニテイが失われていることであり、もう一つは、一戸建の中古住宅市場が未成熟で、適切な価格で一戸建を売ることが難しいことである。

以上の背景を受けて、「立地の再編」とは、中心市街地を居住の場として再生するとともに、老後の円滑な住み替えのあり方を確立することを政策課題とするものである。

ところで、郊外において生活不安が生じている原因は、車の問題だけではない。もう一つの原因は、親子が同居しなくなっていることにある。従来の日本では、親子同居が当たり前であったが、産業化の進展とともに親子の職業・就業地が異なることが一般化した。このため、今日では、高齢者のみで暮らす世帯が多くなり、このことが車の問題と相まって、老後の郊外生活を困難にしている。

日本では、産業化の進展が急激すぎたために、一戸建住宅を理想とする昔の意識が残ったまま、大量の郊外開発が進められた。そして、今日、そこに住む人々が老後を迎え、高齢者だけで暮らす郊外生活の困難さが顕在化したということである。

以上の問題を解決するために、住宅政策がとりうる道は二つある。一つは、住み替えを活発化する道である。つまり、子育て期は郊外の一戸建住宅に住み、老後はリタイアメント・コミュニティに引っ越すという、いわばアメリカ型の生活である。

もう一つは、郊外の一戸建住宅の比重を低下させ、中心市街地の都市住宅にずっと住み続けるという道である。いわば、コンパクトシティ型の生活である。これを支える具体策の一つとして、我々のチームは、市街地に適したSI住宅の開発を行っている。

日本の住宅政策は、第三のステージへの転換点にある。私は、以上の二つの道(リタイアメント・コミュニティの道とコンパクトシティの道)を、各自治体の事情に合わせて、適切にミックスさせていく方針をとることが適切ではないかと考えている。


参考資料) SI住宅による中心市街地の再生の考え方

1.SI(スケルトン・インフィル)方式の住宅

SI住宅とは、建物をスケルトン部分(構造躯体等)とインフィル部分(間取り内装等)に明確に分離し、前者は長期にわたり利用できる耐用性を重視し、後者は居住者の多様性や将来の変化に応じやすい可変性を重視して計画した集合住宅のこと(図)。

<中心市街地の住宅としての意義>
1.中心市街地に住む人々の多様なライフスタイルに対応した間取り・内装を実現しやすい
2.将来の用途転用に対応しやすく、また低層階に店舗などを複合しやすい


2.SI住宅による小規模連鎖型の再生方法

コーポラティヴ方式や定期借地権と組み合わせることで10〜20戸程度の小規模建替えを経済的成立させることができる。

これを用いると、子どもや高齢者が住みやすい居住環境を中心市街地に再生しやすい。


3.SI住宅による商店街の再生方法

現状の中心市街地では、郊外大型店の影響を受けて商店街は成立しにくい。

そこで、SI住宅の仕組みを導入してコンバージョンや建替えを行い、まず中心市街地に住宅を供給する。

人口が増えてくるとともに商店が成立しやすくなり、将来は、活気のある商店街を再生できる。