2004.9.13

ナワバリ学の教え9 引越の挨拶は騒音トラブルを避ける知恵
(全国賃貸住宅新聞2004.9.13)


アパート暮らしでは、上下階の音が問題になることが多い。これが原因で深刻なトラブルになる例もあるから注意が必要だ。

騒音を許容する心理

この問題について面白い調査結果がある。それによると、隣人と顔見知りになると、小さな音であれば気にならなくなるそうだ。その理由は、第一に、お互い様だからと許し合う意識が生まれることだ。第二に、ひと言注意すれば配慮してくれるという期待が生まれると、実際に注意しなくてもイライラは緩和されるという心理的な作用だ。学問上は、「対処可能性」と呼ぶ。つまり、互いに顔見知りになると、この対処可能の心理が生まれるために、騒音も気にならなくなるというわけである。

引っ越しの挨拶

 大学の講義で、アパート暮らしの学生に引っ越しの挨拶をしたかどうか聞いてみた。なんと約半数が挨拶していなかった。その学生達は、隣人の顔を知らないのである。このような状況では、音の問題を許し合う意識は生まれにくい。イライラが募ってトラブルになる恐れもある。引っ越しの挨拶という昔から知恵には、このように実際の効用がある。大家さんが率先して勧めるのも一案かもしれない。

廊下型と階段型

 建築の形式も重要だ。廊下型のアパートでは、引っ越しの挨拶は、同じフロアの居住者に行うのが普通だ。しかし、騒音が問題になりやすいのは上下階である。上下階どうしは顔を知らないわけで、小さな音でも気になってくる。

これに対して、階段から各戸に入るアパートでは、引っ越しの挨拶は、同じ階段を使う上下階の人にする。つまり、騒音を出す人の顔が分かるわけだ。どんな人が音を出しているか分かるだけでイライラは少し減るのだという。顔がわかると、かえって不機嫌になる人もいるかもしないが、それは例外だ。一般には、小さな音であれば気にならなくなるものである。

下階の住戸に挨拶する

このような特徴から、階段型の設計の方がよいと主張する学者もいる。もちろん、廊下型にもエレベーターを利用しやすいなどの良さがあるため、そう単純には割り切れない。廊下型では、下の階にも引っ越しの挨拶にいくことが有効のようだ。