2004.9.6

ナワバリ学の教え8 窓の形状がナワバリ意識を左右する
(全国賃貸住宅新聞2004.9.6)


アパート建築を設計する場合、廊下に対して小さな窓を設けるだけで、居住者のナワバリ意識が戸外へと広がり、暮らしやすい環境が実現しやすい。その実例をみてみよう。

ガラスの玄関扉

 東京江東区の東雲にある単身者や小家族向けの公団賃貸マンションでは、玄関扉がガラスになっている住戸がある。その廊下を歩くと、玄関内の様子が見えて楽しい雰囲気が生まれている(写真)。また、居住者にとっても、廊下が自分の家の延長のように感じられ、そこを掃除する行為も生じやすい。

プライバシーは大丈夫

プライバシーが気になるのではと心配になるが、問題はないようだ。気になる居住者はカーテンを閉めればよいからだ。つまり、ガラス扉は、閉じるのも開くのも自由に選択できる。一方、窓がない鉄の扉は選択できない。どちらが優れているかは自明だろう。

 住棟入り口がオートロックになっているため、防犯も問題ないようだ。もちろん、簡単に破れない網入りガラスだから、仮にオートロックがなくても大丈夫だろう。

両面型設計の工夫

東雲は玄関全体がガラスだが、そこまで開放的でなくても、小窓を設けるだけで十分に効果がある。逆に、まったく窓がない設計では、室内から廊下の様子が分からないため、居住者はプライバシーに過敏になり、いわば自閉症のような生活に陥ってしまう。

ファミリー向けの住宅ならば、LDKの窓を玄関に向ける設計を考えたい。反対のベランダ側にも窓があるから、これを「両面型」の設計と呼ぶ。近隣との接点の窓と、プライバシーが守られた窓の両方をもつという意味だ。

私が以前住んだ賃貸団地では、台所の窓が廊下に面している住棟があった。夏祭りの寄付を集めたときに、この住棟だけが寄付額が倍に達した。理由を聞くと、この窓越しに声をかけやすいからだという。近隣との接点の窓は、コミュニティ形成に大いに役立つ。建築設計において配慮したいポイントである。

玄関扉がガラスの賃貸マンション