2004.07.26

ナワバリ学の教え2 植木鉢の効果を生かす
(全国賃貸住宅新聞2004.7.26より)

 アパートの廊下や家の前に、植木鉢が置いてある光景を時々見かける。この植木鉢は、入居者の住まいへの愛着を強めるために大切な働きをしている。

入居者による「表出」

 賃貸住宅は、どの家も同じ形をしている。そこで、大切になるのが「表出」である。表出とは、入居者が自分らしさを表すための様々な物を指す。例えば、個性的な表札、飾り、そして植木鉢である。これらを通じて、そこが自分の家だという愛着をもつのである。

 学問上は、ナワバリのマーカー(指示物)と呼び、犬のオシッコによる臭いづけと同じもの。ここは俺のナワバリだと宣言する意味をもつ。では、犬に臭いづけをさせないと、どうなるだろうか。犬は、ナワバリを失い情緒が不安定になる。人間も似たような感情をもつらしい。自分らしさの表出が制限されていると、いつまでも「仮の住まい」という感覚が抜けない。

植木鉢とナワバリ意識

 筆者の調査によると、植木鉢が多いアパートでは、入居者はゴミが落ちていたら拾い、不審者をみれば注視しようとする意識をもつ。つまり、家の中だけではなく、家の周りまでナワバリ意識が広がるのである。それとともに、入居者の住まいに対する愛着も深まる。

表出は伝染する

 では、表出を促すためには、どうしたらよいのだろうか。

 面白いことに、表出は「伝染する」という性質をもつ。ある一軒が植木鉢を置くと、隣人も置くようになる。これを生かして、大家さんが率先して植木鉢を綺麗に飾ったらどうだろうか。それが伝染して、アパートのあちこちに植木鉢がおかれれば、魅力的な住まいに変貌するはずだ。

空間設計を工夫する

 しかし、玄関まわりやベランダに植木鉢を置くスペースがなければ、それも難しい。新築時であれば、玄関まわりやベランダの設計に配慮することが大切だ。写真のように、わずかなスペースでも、随分と表出が促されるのである。


玄関まわりの表出