2004.07.19

ナワバリ学の教え1 住み続けたくなる賃貸アパートとは何か
(全国賃貸住宅新聞2004.7.19より)

 ひと昔前、アパート経営の秘訣は、回転率を上げることにあるといわれた。2年程で入居者が入れ替われば、礼金がそのたびに入り、家賃も気兼ねなく値上げできるというわけだ。しかし、これからは人口が減る時代であり、それは望むべくもない。むしろ、空き家になる心配の方が強いというのが現実だろう。

 このような時代には、できる限り入居者に長く住み続けてもらうことが大切になる。つまり、一人一人の入居者からみて「住み続けたくなる賃貸住宅」が求められるのである。

ナワバリ学を知ろう

 では、住み続けたくなる住宅とは何だろうか。例えば、家賃を大幅に安くできれば定住者が増えるだろうが、それでは経営が成り立たない。かといって、快適な設備がそろっているという程度では、似たようなアパートは多いし、分譲住宅にはかなわない。

 では、どうしたらよいのか。その謎を解くのが、「ナワバリ学」である。

 動物は、巣を中心にナワバリをもつ。同様に人間も、住まいとその周辺を自分のナワバリにしようとする。ナワバリとは、そこを自分の場所だと思い、愛着を感じ、自ら手を加え、そして常に関心を払おうとする場である。このナワバリがうまく形成されると、住まいは、その入居者にとって愛着ある「オンリーワン」の場になる。つまり、住み続けたくなるのである。

魅力的な住まいづくりへ

 しかし、現状の多くのアパートをみると、家の中は釘一本打つにも不自由であり、一歩外に出れば隣人の顔も知らないという場合が多い。これでは、「自分のナワバリ」という意識は育たない。多くの人々が賃貸より持家を好む理由の一つに、賃貸住宅ではナワバリ意識がもてないことがある。

 もちろん、「ナワバリ学」には、転勤や結婚などによるやむを得ない転居を阻む力はない。しかし、「もう少しここに住み続けたい」と思わせる力はあり、安定経営に寄与するはずだ。加えて、我が国のアパート建築を見直すために大いに役立つ。つまり、一人一人の居住者にとって、魅力的な住まいとは何かを教えてくれるのである。

10回連載で、ナワバリ学の教えを紹介する。(次回は、植木鉢の効果を生かす)