2004.04
住宅ベンチャーを支援する公的金融への期待 住宅分野における官への期待 今日、政策全般において「官から民へ」の転換が求められている。つまり、政府の役割を「民間ができないこと」に絞ろうとする動きである。では、住宅分野において、「民間ができないこと」とは何だろうか。 その代表として、セーフティネットの整備や規制緩和といった課題があげられるが、それに加えて、住宅の特殊性を踏まえるならば、住宅ベンチャーへの支援という役割を重視したい。ベンチャーという営みは、一見すると、民間の自由な発想と投資に委ねるべき分野にみえる。しかし、住宅分野では、とりわけ住宅金融の分野においては、民間での対応が難しい場合が多いのである。以下で、その理由を説明しよう。 定期借地権にみる公的金融の意義 十年ほど前に「定期借地権」が創設された。この新しい試みに対して、当初は、住宅金融公庫のみが融資を行い、民間銀行は対応することが困難であった。その背景には、次のような住宅の特殊性がある。 一つは、言うまでもなく金額が大きいことである。住宅は数千万円と高額である。このため、購入資金への融資が必要になり、その可否が定期借地権の普及を左右する。しかも、無担保融資が難しいため、容易には融資を組み立てられないという特性をもつ。 もう一つの特殊性とは、融資対象がベンチャー企業自体ではないことである。つまり、新しい定期借地権住宅を販売するディベロッパーが融資対象ではなく、住宅を購入する個人個人が融資対象になる。実は、このズレこそが、住宅ベンチャーが、産業製品を開発する一般ベンチャーと異なる決定的な理由になっている。 一般ベンチャー企業への融資であれば、ハイリスク・ハイリターンの投資として、一定の合理性をもって組み立てられる。しかし、住宅ベンチャーでは、融資対象は個人個人である。未知でハイリスクである一方、ローリターンにならざるをえない。民間金融機関にとっては、ある程度普及してリスクを見極めるまでは、取り組む動機に欠けるのである。 新しい試みと中古売買の実績の矛盾 私自身、「つくば方式」と呼ばれる新しい定期借地権住宅を開発し、民間銀行と交渉したことがある。もちろん不調に終わった。その理由は、「中古売買の実績がないから担保評価ができない」「融資戸数が少ないため新しい融資制度をつくる手間をかけられない」というものであった。 ところが、すべての新しい住宅の試みは、中古売買の実績をもたず小戸数である。このため、このような理由に従えば、すべての住宅ベンチャーへの民間融資は不可能ということになる。つくば方式には住宅金融公庫だけが融資を実行し、公的金融の意義を実感した次第である。 海外をみれば、最も市場機能を重視すると言われるアメリカでさえ、高齢者が住宅資産を現金化するためのリバースモゲッジ制度を定着させるために、政府の融資保証が決定的な役割を果たした。住宅分野とは、このような特殊な官の役割が求められる分野といえる。 ストック活用の時代こそ住宅ベンチャーが求められる 今日、住宅の戸数は余り、その質も不十分とはいえ向上しつつある。しかし、その一方で、各々の住宅の特性と、そこに住む人々の暮らし方にミスマッチが生じている。例えば、郊外の広い家に住む高齢者が、車が運転できなくなった時の生活に不安を感じつつ暮らしている一方で、若いファミリー世帯が狭い家で苦労している。また、衰退した中心市街地を再生するために、郊外に出た人口を呼び戻すことも課題になっている。 つまり、「量と質」の次に求められる住宅政策の課題は、「ストックの再編」である。その具体策の一つが、中古流通を活性化することであり、すでに取り組みが始まっている。そして、もう一つが、新しい住宅の利用形態を推進することである。例えば、前述したリバースモゲッジや、それを建替えに応用した定期利用権の提案、さらには賃貸住宅ストックを有効利用するためのスケルトン賃貸化や、団地の空き家を住民組合が経営するための組合所有方式など、多くの提案がある。その詳細は別の機会に譲るが、実は、そのすべてが「住宅融資が得られないため頓挫している」のである。 公的な住宅金融は、住宅ベンチャーを支援するという大きな役割を担っている。そして、それを推進することが、民間市場の活性化にとっても不可欠であると考えている。 |
||