立体基盤 Urban Skeleton

−文責  あべ

はじめに
近年、都市再生を進める具体的な建築技術として、SI(スケルトン・インフィル)住宅や、人工地盤をもつ建物が注目されています。これらは、立体基盤(スケルトンや人工地盤部分)と二次構造物(インフィルや人工地盤上の建物)の二つの部分に明確に分かれる点に特徴があり、本研究では、「立体基盤建築物」と総称しています。
図1.SI住宅概念図
写真1.定期借地権を使って
SI住宅を実現した例
(つくば方式・松原アパートメント)
写真2.逆梁工法によるSI住宅の実現
立体基盤建築物は、二次構造物を自由に注文建設したり、また増改築したりすることが容易なため、立体基盤を長持ちさせつつも、都市の多様な利用形態や将来の変化に対応しやすいという長所をもつと思われます。

さらに、立体基盤部分と二次構造物の投資と経営を分離しやすいため、都市再生における多様な投資形態に対応できるという大きな利点があります。造物を安価に提供することが可能で、住宅価格を低減し、職住近接をはかることもできます。

しかし、このような立体基盤と二次構造物が明確に分かれる建物は、現行の建築関連制度(建築基準法、都市計画法、消防法など)や不動産所有関連制度では想定されておらず、法制度上の位置付けが不明確です。このため、民間利用者や金融機関からみると安定性に欠ける不動産となり、十分にその長所を発揮することができないというのが現状です。

この問題を解決し、新しい立体基盤建築物の実現と、それを用いた都市再生手法の確立が本研究のねらいです。
図2.人工地盤のSI化概念図
写真3.駅前広場という形の人工地盤
公共空間を賑わいの空間へ

都市空間中の公共空間は不特定多数の利用に供されています。その為、自治体など管理者の管理円滑化のため公共空間には様様な制約がかけられています。駅前の人工地盤上であれば、整備目的によって変わってきます。


写真4.公共通路という人工地盤
例えば、公園としての位置付けで整備されたのであれば「都市公園法」、ペデストリアンデッキなどの公共通路として整備されたのであれば「道路法」などです。その上、公物管理法という公共のものは管理しようという法律の制約を受け、市民の公共空間上の行為に「物品販売などの禁止」など様様な私的行為の禁止事項が加わります。

このように、公共空間としての人工地盤上の利用には様様に制約がかけられています。確かにある一定の規律は都市の秩序形成の為に必要ですが、現状はあまりにも厳しくなっています。公共所有だからといって公共通路・公共広場などの機能を限定しないで公共空間にもっと民間の柔軟な発想のもとに賑わいの空間が演出されるようになれば都市はもっと魅力的になるのではないかと思います。
写真5.人工地盤上の立て札1
写真6.人工地盤上の立て札2
利用と所有の分離概念

戦後憲法の私有財産制の下で日本での土地所有は社会的な制約をほとんど受けずにきました。私有地をマーキングするように自宅の外構をブロック蔽で囲うなど、敷地を一歩外に出たら歩道・道路という公共空間となるなど、外部空間に対して関心の薄い現状となっています。公共の用に供される主旨である公共空間は多くの場合、自治体の管理下におかれ、住民同士も判別しにくい領有意識の薄い空間となっているように思われます。そのような、利用と所有が平面上二極分化した現状を、立体的に分離・複合化し直そうという概念になります。

図3.現在の平面上の利用・所有の分離概念
図4.立面上での公私の分離概念
所有と利用を分離することの理由として、経済的な側面からみると都市再生手法としての効果も期待できます。例えば、自治体所有の人工地盤・スケルトン部分に民間資本による店舗を建設することを想定すると、土台であるスケルトン部分は公共負担であるから基礎部分の建設費が浮くことによる投資の分離により民間(私)の参入が促されます。また、二次構造物(SI住宅でいえばインフィル)を取引の中心としたマーケットが生まれることも想定されます。以上のように市場活性化の手段として有効と思われます。
調査方法
公私の複合化への検討
今後、都市再生に必要なテーマとして、公共ストックの私的利用が重要となってくると思われます。国の財源が限られてきている時代に、都市空間の再整備を住民・民間企業の柔軟な発想・活力で進めていく必要があります。対象とする空間やプロジェクトにより公私の主体は変化するのですが、概ね、「公」は国・地方自治体などの公的組織、「私」は民間企業、地域共同体、商店主や住民などの個人という意味合いで定義化しています。公共のストックとしては駅前広場のような、人工地盤という都市基盤、公社賃貸住宅などの建物等を対象としてプロジェクトを進めています。

・各プロジェクト関係主体にヒアリング
・人工地盤、地盤下の登記簿調査

調査対象

駅前人工地盤
・ JR上野駅東西自由通路
・ JR川口駅西口駅前広場
・ 新宿サザンテラス

公団スケルトン賃貸住宅
・ 新宿区河田町公団賃貸
・ 港区汐留H街区
図5.公団スケルトン賃貸住宅
公私の積層化概念図
<事業詳細>
神奈川県公社賃貸住宅
ケーキモデルによる論点の整理
 これまでの都市構造上の所有・利用の分け方をケーキの分け方で整理してみます。

お皿を土地として、お皿の色が土地所有者の所有区分であるとします。ケーキを公共・民間の利用する部分とします。例えば、民間色皿(青)の所有者はその上部のケーキの食べ方(利用の仕方)は自由で、建築で例えると建築基準法、都市計画法、その他、地区計画などの法規の枠内であれば何を建てようが自由です。

しかし、公共色皿(ピンク)である場合、道路法や都市公園法などにより、食べ方は厳しい制約を受けます。

これが今までの都市構造で、ケーキは上から一切れずつ垂直的にお皿の色に従って分けられ、隣の一切れのスポンジ層だけ食べさせてくれる(利用させてくれる)など、それが公共色皿のケーキならば考えられないことで、決まりきった分け方でした。

それから、周りのケーキはどんどん食べられて(民間色皿)、取り替えられていくのに対して、公共色のお皿だけケーキ部分が古くなっていくような状態です。

このようなケーキの分け方を、もっと自由にしようというのが、立体基盤研究の目的です。

区分所有法なども上部のケーキの食べる量(利用する量)に従ってお皿の色を変えたりするなど新しい分け方となっています。

ケーキのお皿の色に従った、垂直的な分け方だけではなく、隣皿のスポンジの層だけ食べたり、公共色皿のケーキ上部のイチゴだけ民間色皿の人が食べたりできるようなケーキの分け方にする。つまり、所有にとらわれない利用の形態を考えることが、お皿全体のケーキが満遍なく利用を享受されたり、取り替えたりという活性化につながって、ケーキに例えた都市はもっと魅力的になるのではないかということです。
図6.従来の所有と利用の分け方
図7.これからの所有と利用の分け方
研究計画の概要書(pdf) PROJECT