KOBAYASHI LAB NEWS 2017

2017.04.20

小林先生が日本マンション学会論文賞を受賞しました

 日本マンション学会の論文賞は、理系と文系の各部会から推薦されます。2017年度はマンション学掲載約70編から2編が選定され、うち1編が小林先生の論文となりました。以下の文章は、受賞報告としてマンション学58号に掲載されたものです。

「マンション解消制度のあり方−建替えの困難さを踏まえて」 マンション学56号 2017.1

 このたび、マンション学56号掲載の拙稿「マンション解消制度のあり方」について、日本マンション学会論文賞を賜り、大変光栄に存じます。この論文は、解消制度・特別研究委員会における議論を踏まえたものです。この点で、共同研究賞に近い性格のものと考えております。この場をお借りして、研究委員会のメンバーの皆様に感謝する次第です。

 また、本論文は、理系の性格が強いものですが、同時に、区分所有関係の解消を扱うため文系の性格を併せ持っています。いわば、理系・文系の区分を超えた論文といえるかもしれません。多様な分野で構成される特別研究委員会を通して、自然にこのような性格になりました。
 今後は、マンション学でも文理融合型の論文が増えるのではないでしょうか。本論文を、その一つに位置づけていただければ、大変ありがたく思う次第です。

1.数値シミュレーションを実施

 論文の内容を裏話を交えて紹介します。
 解消制度が必要とされる理由として、マンション建替えが難しくなっていることがあります。しかし、その客観的な証明は不十分です。そこで論文の前半では、建替えの困難さを示す数値シミュレーションを行いました。

 具体的には、建替えにおける区分所有者の還元率(従前床面積の何%を無償で取得できるか)を計算しました。建替えでは、地価と容積倍率(従前容積の何倍にできるか)、それに建築費の高低によって、概略の還元率を予測できます。それを計算するプログラムをエクセルで作成しました。

 次に、これを用いてグラフを描くのですが、そのためには、地価を坪10万円ずつ動かして結果を出力するマクロを組む必要があります。難しいプログラムではないのですが、随分昔に使っていたプログラミング言語のため、思い出すのに苦労しました。文法を間違うと、パソコンは意地悪く停止します。やっとうまくいったときは、思わずに顔がほころびました。

 同じようにして、容積倍率や建築単価を変化させるマクロを作成し、最後に、それらを動かして、結果を一覧表にアウトプットします。ここまで到達すれば山を越えます。一覧表からグラフを作成するのは、理系ではよく行う作業です。こうして、還元率の予測グラフが完成しました。

 このグラフに、建替えに成功したマンションをプロットしました。容積倍率は、マンション再生協議会のデータをお借りました。一方の地価は、正確なデータは不明ですので、周辺地域の地価情報(基準地価や公示地価)から推定しました。

 この作業の結果、建替え成功例は、一定の条件範囲の中にプロットされることが分かりました。つまり、建替えが成功する条件を客観的に示すことができたわけです。この条件に照らすと、地価が低い郊外、あるいは都心部でも法定容積率一杯に建っているマンションは、建替えが困難なことが分かります。

2.後半は管理不全の実態を踏まえ制度提案

 さて、本論文の後半は、研究委員会による管理不全マンションの実態調査を踏まえて、管理不全が発生する理由を整理し、その上で、マンション解消制度を提案しました。提案の骨格は、被災マンションや耐震性に劣るマンションにおける解消制度と同様なものです。

 しかし、ここで疑問が指摘されました。マンションが管理不全に陥ると、管理組合が機能していないことが多く、そもそも合意形成が難しいという疑問です。つまり、特別多数決による解消決議を提案しても絵に描いた餅になってしまうのです。

 そこで、多数決による解消決議の提案とは別に、行政代執行を可能にする新制度を提案することにしました。つまり、解消制度として、2つの制度を提案したわけです。

 解消制度・特別研究委員会は、2018年5月北海道大会で最終報告を発表します。現在、それに向けて議論が続いています。最終提案が、本論文と同じになるかどうかは分かりません。この論文を契機として活発な議論が生まれれば幸いに存じます。

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